第四十五章 シャルド 8.遺跡の内部へ(その2)
本章最終話です。先行調査隊は、遺跡の中で何を見るのでしょうか。
そこはガランとした空間だった。
「ここまでの道も結構広かったが、こりゃまた輪を掛けて広いな」
「この先は道が分かれている。分岐点という事なんだろうが……」
「あぁ、俺も気がついた。ただの分岐点にしちゃ、妙に小部屋っぽい空間が多い」
「どうやら本当に未完成の小部屋のようだね」
「未完成……ですか?」
「……つまり、単なる小部屋じゃねぇって事ですか?」
クルシャンクの問いに答えたのは、同行している若い魔術師だった。
「幾つかの小部屋には、壁に何かを嵌め込むような窪みがあります。魔石を嵌め込むためのものではないかと思えるんですが……」
「「魔石?」」
ダールとクルシャンクの声が綺麗に重なる。
「それだけではないよ。気がついたかね? それらの小部屋の壁には深い穴が開いている。大きさも、穴の方向も、どの部屋も大体同じだ。何かを供給、あるいは排出するための管のように見える」
「……どこに通じてるんで?」
「判らんね。そもそも完成した管なのかどうかも判らん。掘削の途中で放棄されたのかもしれんしね」
「途中で放棄……」
「あぁ、妙な違和感の正体はそれだよ。ここはダンジョンと言うよりは、建設途上で放棄された何かの施設のように見える。今なら自信を持ってそう言える」
ハーコート卿の意見を聞いたダールは、若い魔術師に問い掛ける。
「ここの壁もダンジョンの壁と同じ材質ですか?」
「いえ……それが、ここまでの通路の壁はダンジョンと同じ材質のようでしたが、この広場の壁は違います。普通の石窟の壁のように思えます」
「……どういうこった?」
「人工的に造った施設を、後からダンジョン化しようとしたのか?……」
一同はしばらくその場に留まり、三つの通路に放った偵察班の帰還を待つ。やがて戻ってきた偵察班の報告は……
「右の通路はすぐに行き止まり。途中で掘るのをやめた感じ、か」
「左の通路の先は、石材みたいな石が積まれた小部屋、ねぇ」
「我々としては真ん中の道を進むしかないようだね」
「真ん中に送り込んだ偵察員が戻るのを待ちます」
二時間ほどして真ん中の通路から戻った偵察員の報告は……
「またしても広場、か……」
「石材なんかが積まれて、いかにも建造途中でございって感じ、か」
「まぁ、行ってみようじゃないかね」
・・・・・・・・
「なるほど。こっちの広場は雑然としているな……」
「石やら砂やらが積まれているよな」
「ふむ。石材の大きさはいずれも同じ。しかも実に綺麗に整形してある」
「こっちの、砂山みてぇなぁ何ですかね?」
「いや……砂じゃないぞ、クルシャンク。石の粉末のような感じだ」
「あん? 漆喰みてぇなもんか?」
「多分な。コチコチに固まってるが」
「報告します! 向こうの隅にゴミのようなものが纏められています!」
「ゴミだぁ?」
「はっ! 自分には、後で捨てるつもりで一ヵ所に纏めて、そのまま捨て忘れたように見えました!」
「行ってみよう、クルシャンク」
「古代のゴミとは興味深いね」
彼らが発見した「ゴミ」のせいで王国上層部が大混乱に陥り、この「遺跡」が最高機密および最重要警備対象に即時指定されるのは、このすぐ後の事である。
明日はクロウたちの章になります。




