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第二百九十九章 コン・ゲーム~始動~ 3.テオドラム~青天の隕石(メテオ)~(その2)

 元々はアムルファンの貴族でありながら、祖国での待遇に不満を覚え、領地を接するテオドラムに寝返ったハーメッツ家。


 労せずして領地を手に入れたテオドラムからは相応の待遇で迎えられたのだが、当時の当主に領地経営の才が徹底的に不足していたために、移籍後間を置かずして、またもや領地の経営が苦しくなった。

 そこで困った当主は、交通と物流の(よう)(しょう)であるガベルの町を(うかが)える位置に自領がある事をこれ幸いと、商都ガベルの安全を担保に、当時のテオドラム王家から金をせしめようと画策した。一介の貴族が王国相手にそんな馬鹿な真似をして、無事でいられる筈が無い。当然の如く王家の怒りを買って、一族郎党滅ぼされた……という(いわ)く付きの貴族家である。

 教訓を含んだ笑い話として子供の頃に聞かされたのを、居並ぶ面々もうっすらと思い出した。



「その〝考え無しのハーメッツ家〟だが、王家に()(ほん)を企てる前に、土地を担保に金を借りていたらしいのだ」

「……確かハーメッツ家は、アムルファンから帰順後間も無く滅ぼされたのだったな」

「そのせいで、領地献上の手続きが終わっていなかった可能性がある訳か……」

「つまり……その証文とやらが書かれた当時は……」

(くだん)の土地はまだハーメッツ家の所有であった可能性があるのか……」



 その後、ハーメッツ家の領地はテオドラム王国が接収したが、



「その際に、この負債が円満に処理されたという記録は無い」

「つまり……テオドラムは債務を完了していない」

「それを理由にその商人は、返済を要求している訳か……」



 成る程。証文の出自については――納得はできないものの――理解はできた。しかし、まだ得心の行かない点はある。



「……だとしてもその商人は、何故(なぜ)今頃になって取り立てを言い出したのだ?」

「そこが話のややこしい点だ。まず、(くだん)の証文を持ち出してきたのは、商取引を行なった商人ではない」



 ……そりゃまぁ、百年も昔の事なのだからそうだろう。



「いや、そういう意味ではなくてな。取引相手とは縁もゆかりも無い、海の向こうの異国に住まう者らしい」

「何だと?」

「……どういう事だ?」



 ()(もと)を偽って土地代金の()(しゅ)(はか)ったのかと思いきや、



「そうではなくて……本来の債権者は、証文もろとも海に沈んでしまったらしい」

「「「「「何だと……?」」」」」



 二転三転する説明に、国務卿たちは当惑顔であったが……無理もない――と、マンディーク商務卿は心の(うち)(うなず)いていた。他ならぬこの自分でさえ一度では理解できず、再三再四の説明を要求したのだ。



(くだん)の証文はな、手文庫の魔道具の中に保管されていたそうなのだ。難破船からの回収物という触れ込みでな」

「「「「「………………」」」」」

「ただし、その手文庫は封印の魔法でがっちりと護られ、開ける事はできなかった(よし)

「「「「「………………」」」」」

「そのせいかあらぬか、二束三文で人手を点々としていたのを、今回証文を持参した者が買い取ったらしい」

「「「「「………………」」」」」

「その男にとっては幸いな事に、百余年を経てさすがの魔道具の御利(ごり)(やく)も落ちていたようでな、ふとした(ひょう)()に蓋が開いて」

「……中からその証文が飛び出して来た、と」

「そういう事だ」



 溜息を()く者、(うな)る者と、反応は各人各様であったが、取り敢えず一拍を置いた後で、マンディーク商務卿は話を続ける。



「その者も証文を読んで面喰らったようでな。それでも一応は、本来の債権者の係累を探そうとしたらしいが……見つける事ができなかったそうだ」

「「「「「………………」」」」」

「で――ただ放って置くのも収まりが悪いし、何より証文に()かされているような気がしたそうでな。遙々(はるばる)海を渡ってこの大陸までやって来たという」

「「「「「………………」」」」」

「ただな……何しろ百年ほど昔の取引証文だし、(そもそも)法的な正当性があるのかどうかも判らんという事で、取り敢えずアムルファンの商業ギルドに持ち込んだらしい」

「「「「「………………」」」」」

「商業ギルドの方でも(たま)()たそうだが、取り敢えず種々(しゅじゅ)の検査や鑑定を施して、証文自体が本物だという事は確認したそうだ」

「で……その者は、土地の返還を要求している訳かね?」



 ファビク財務卿の問いかけに、居並ぶ一同は居ずまいを正して聴き耳を立てる。そう、それこそが問題の要になる。


 だが……マンディーク商務卿は黙って首を左右に振ったではないか。



「さすがにそこまでの厚顔ではなかったようだ。何しろ百年前の証文だからな。正当性はともかくとして、実効性は疑わしいと感じていたようだ」

「だったら何を……」

「代わりにその者が申し出てきたのが、(くだん)の証文を買い取ってもらえないかという事だった」

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