第二百九十九章 コン・ゲーム~始動~ 1.クロウ陣営~始動~
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『ボス、沿岸国がテオドラムとマーカスの開戦回避に動いているようです』
薄笑いを浮かべたオッドからそういう報告を受けたクロウの反応はと言うと、
『何だと? テオドラムとマーカスが開戦する? ……事実なのか?』
……というものであった。
おのれテオドラムめマーカスめ。ダンジョンマスター――改めダンジョンロード――たる自分が、これまでどれだけ避戦のために動いてきたと思っているのだ。その苦労を悉く無に帰すような真似をしくさって……いっそ両国ともにダンジョンの底へ沈めてくれようか……
……などと不穏昂じて剣呑な気配を立ち上らせるクロウを見て、オッドは慌てたように訂正を入れる。
『あ、いえ。騒いでいるのは沿岸国、もっとはっきり言えばアムルファンだけで、モルファンをはじめとする他国は半信半疑の様子です。それでも行動を起こす事自体は有益だと見做しているようで、働きかけを考えてはいるようですが』
『……どういう事だ?』
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ひょんな事からクロウの手に入った土地証文。それを最大限に活用すべく、オッドは「債権者」として適切な商会をでっち上げ、その商会の実在を証明する様々な痕跡を捏造していた。例えば沿岸国の港町でそれらしい小商いを行なわせるとか、その際に自分たちは異国の商会だと自称するとか、ここには大商いの下調べのためにやって来ているような話を然り気無く漏らすとか。
じっくり数年という年月を掛けての仕込みの末、どうやら舞台装置は整ったと見て取ったオッドは、本腰を入れての作戦始動に取りかかる。どこか適当なところへ〝上陸〟して、怪しまれないような土地取引の仲介者を物色して……と考えているところへ降って湧いたのが、アムルファンの避戦運動であった。
タネを明かせばこれは、巡り巡った勘違いの末に、テオドラムとマーカスの開戦が秒読みに入ったと誤解したアムルファン商業ギルドが、何とかしてその開戦を思い止まらせようと手を尽くした結果であった。当人たちは至って真剣なのだが、傍からすると空騒ぎにしか見えぬという、おかしな状況に陥っていた訳だ。
抑の話として、テオドラムとマーカスの両国が開戦など考える筈が無い。何しろ両国の国境は、あの「災厄の岩窟」の真上を横切っているのだ。そこで迂闊に開戦なんてやらかした日には、「災厄の主」の怒りを買うのは必定ではないか。そんな危険を冒せる訳が無い。
……というのが両国の偽らざる真情であったのだが、クロウに対する警戒という点を抜きにして考えれば、ここ暫くの二国の動きが不穏な結果を予想させる、或いは妄想させるものとなっていたのも事実。ほぼ九割方は不幸な偶然と誤解の産物であるのだが、不安と懸念を生み出す土壌は整っていた訳だ。
そして……万一両国の間に〝決定的に不幸な事態〟が訪れれば、商業活動が迸りを喰らうのは理の当然。アムルファンからマーカスまでの街道整備を夢見るアムルファン商業ギルドとしては、何としても避けたい展開である。
故に――傍目には意味の無い空騒ぎに映っても、アムルファンは大真面目に避戦の働きかけを行なっていたのであった。
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『アムルファンがどういった根拠で誤解に至ったのかは定かでありませんが、テオドラムの意識を開戦から引き離せるものなら何だって歓迎……今やそういった雰囲気が支配的になりつつあります』
『つまり……今なら土地取引の話を持ち込んでも、碌に裏も取らずに話に乗る可能性が高い……と、そういう訳だな?』
『はい。我々には願っても無い好機かと』




