第四十五章 シャルド 7.遺跡の内部へ(その1)
いよいよクロウたちの造った遺跡の内部に入ります。
ダールと共に予備調査隊の指揮官を務める羽目になったクルシャンクは、忌々しげに三つ目の扉を眺め遣りながらぼやいた。
「……ったく、これを造ったやつぁ、ホントにい~い性格してやがるぜ。最初の二つの扉の先は行き止まり。入口付近の道は広いくせに、少し進むと両側は深い溝になって、実質歩けるのは真ん中の狭い部分だけ。それも曲がりくねって散々に分岐して、どん詰まりに着くまで丸二日と来やがった。何が楽しくてこんな捻くれた代物を造りやがったんだ」
「……お前のような者が引っかかって地団駄を踏むのが楽しくて、じゃないか?」
「けっっ、千年がかりの嫌がらせかよ。けったくそ悪い」
「とにかく、三つ目はどうやら当たりらしい。追加の兵を送って安全が確保でき次第、考古学者と魔術師の先生方と一緒に入るぞ」
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「中は思ったより綺麗だな」
「あぁ、埃だらけで蜘蛛の巣ぐらい張ってるかと思ったぜ」
「聖魔法による結界の効果でしょうね。もうほとんど残っていませんが、百年か二百年は効果があった筈ですから」
クルシャンクのぼやきに律儀に答えたのは、今回の内部調査に同行した若い魔術師――スパイン教授の弟子の一人――であった。
「聖魔法以外の魔力は感じませんか?」
「ええ、最初から無かったのか、それとも長き年月の間に消え去ったのかは判りませんが……直観的には最初から無かったような気がしますね」
「考古学者の見解としても、どうも変な造りだな。何かこう……上手く言えんが中途半端な感じだ」
「まぁ、ここは単なる通路でしかありませんから。もう少し先に行けば広場がある筈です」
「……しかしよ、ここも途中から両側が深い溝になってるんだが、こりゃ一体何のまじないだ?」
「多分だが……この溝は落とし穴か何か、規模から言うと流砂のようなものを仕込むつもりではなかったかと思えるのだがね」
「流砂……ですか?」
ダールとクルシャンクの脳裏には、モローで見た「流砂の迷宮」の姿が浮かんできた。あの迷宮でも手練れの冒険者数名が命を落としている……。
「違っておるかもしれんがね。広い道を意気揚々と進んでいたら、突然足を捉えられて流砂に引き摺り込まれるわけだ。罠としては実に効果的ではないかね?」
「だけど先生、こりゃ罠にしちゃちっとばかりでか過ぎませんかい? 最初に引っかかったら、そっから先は馬鹿でも気をつけやすぜ?」
「魔力を通すかどうかして、堅い地面と流砂の二つの状態を切り替えるような事はできんかね?」
ハーコート卿は同行している若い魔術師に尋ねてみる。
「……恐らく可能だと思います」
「……もしそうなら、罠としては極めて有効、かつ凶悪ですね」
一同は黙って道を進む。罠が未完成でよかったと思いながら。そしてまた、他にも罠があるんじゃないかという恐怖に怯えながら。
もう一話投稿します。




