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第二百九十七章 夏祭り in エルギン 1.エッジ村(その1) 

(『全く……この忙しい時に、何だってダンジョンロードの俺がこんな真似をしなきゃならんのだ』)

(『マスター以外に適任者がいませんからねー』)



 ここはエルギンの夏祭り会場。涙目の村長に拝み倒された結果、草木染めの出店で店番を務めているのはクロウである。

 プチ・コミュ障の日本人にしてダンジョンロードのクロウが、盛大に柄を外した接客任務などを務める羽目になったのは、(いささ)か曲折した事情があった。



・・・・・・・・



 (そもそも)の発端は昨年の五月祭でエルギン領主のホルベック卿が、エッジ村の協力を仰いで、草木染めを領内の産業とする事を公表した事にある。

 この発表は当然のように盛大なセンセーションを巻き起こした訳だがその結果、エッジ村はエルギン領内の他の村々に草木染めの指導に人を出す事を余儀無くされた。これで自分たちはお役御免、面倒に巻き込まれる事は無い――と、村人一同胸を()()ろしたのだが……どっこい、そうは問屋が(おろ)さない。

 いや、ホルベック卿も内心ではそんな事を思案しており、翌年の五月祭には出店しなくてよい旨を通達していたのだが……



(これでは到底間に合いそうにないな……)



 エッジ村職人衆の指導(よろ)しきを得て、他の村でも草木染めに取りかかってはいるが、技術的にはまだまだエッジ村が一歩も二歩も……どころか、三馬身も四馬身も引き離していた。()友禅(ユージン)染めを別にしてすら、エッジ村の草木染めは、多彩な技術と卓抜なセンスの点で、後発の村々どころか既存の染め物の(ことごと)くを、軽やかに圧倒していたのである。

 この状況でエッジ村の草木染めを引っ込め、代わりに後発の村々のそれを出したとしても、顧客は到底納得しないであろう。



(貴族として前言を(ひるがえ)すのには(じく)()たるものがあるが……もはやそのような事を言っておられる段階ではないか……)



 ()くの如く、ホルベック卿からの要請……と言うか懇願によって、エッジ村は七月の夏祭りに(きゅう)(きょ)出店する事になる。これ自体は唐突な話であったが、村人たちはそこまで動揺はしなかった。

 一つには、草木染めはともかく丸玉細工の方は出店しないと収まりが付かないだろうと思っていたし、これまでの経験に(かんが)みれば、どうせ草木染めの方にもお座敷がかかるだろうと諦めていたからでもある。


 ――問題は別の部分にあった。



「それよりも問題となるのは、お貴族様たちの無茶振りでしょう」



 ホルベック卿も男爵から子爵に(しょう)(しゃく)した事だし、居丈高に命じる者は多くないだろうが、



「その代わりに、ねっとりとした会話の中で言葉尻を捕まえて、(げん)()を取ろうとする者が出て来るかもしれません」

「「「「「………………」」」」」



 昨年の五月祭で、村長必死の抗弁を軽くあしらって、友禅(ユージン)染めの発注をもぎ取っていったエグムンド男爵夫人とオーレンス子爵夫人。彼女たちの剛腕・辣腕(らつわん)を目の当たりにした者たちには、あの猛攻を(しの)(すべ)など思い付けない。話を聞いて危機感と恐怖感を膨らませている者たちは言わずもがな。(じゅん)(しん)朴訥(ぼくとつ)が身上の村人たちには、荷が重過ぎる相手と言えた。


 そして……(すが)るような一同の視線が集中した先にいたのは、



「……え?」

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