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第二百九十六章 マーカスを巡って 9.マーカス王国【地図あり】

 クロウたちを困惑させた謎の「お宝探索隊」とは、実はマーカス貴族間の勢力争いと国際的な見栄(みえ)の産物であった。喜劇の黒幕役を演じたのは、現在のマーカス国務会議から外された非主流派、()わば野党の立ち位置にある、その名もレムダック卿という貴族であった。そして場面はマーカス王都マイカール、貴族だけでなく市民の富裕層も集まった夕食会の席上で、レムダック卿が盛大に自説をぶち上げたのであった。



・・・・・・・・



「西の隣国イラストリアではシャルドの古代遺跡から、目映(まば)いばかりの金銀財宝が出土している。しかしながら()(かん)な事に、我がマーカス王国ではとんとその手の話を聞かぬ。

「いや、誤解無きように断っておくが、吾輩(わがはい)はただ(いたずら)にイラストリアを羨望(せんぼう)している訳ではない。これがイラストリア一国の事であれば、立地と歴史の()せる(わざ)であると、諦めもすれば納得もしよう。しかし――それ以外のところに問題があるとすれば、国を愛する一国民として黙っている訳にはいかぬ!」



 ハブられ居士(こじ)のレムダック親父が、何か又候(またぞろ)不満を()()けているな――と、内心で呆れる者も多かったが、それでも話のネタを提供してくれているのは事実なのだ。ここは合いの手の一つも入れて、気持ち好く独演会を続けてもらおう。



「レムダック卿、〝それ以外の問題〟と言われると?」



 打てば響くという調子で入った合いの手に、これも間髪を入れずにレムダック卿が(いら)えを返す。待ってましたと言わんばかりの会心(かいしん)の笑みを浮かべながら。



「つい先日、吾輩(わがはい)が確かな筋から入手した情報に()ると――イラストリアのシャルドのみか、北の隣国マナステラでも古代の遺跡が発見されたそうだ」


挿絵(By みてみん) [シャルドとカタコンベの位置]


 ざわり――と聴衆が()(じろ)ぎしたのを見て取ると、ここでレムダック卿はとっておきの大ネタを投入する。



「それだけではないぞ? その古代遺跡からは、()のシャルドの遺跡から出土した宝物に負けぬ程の、金銀財宝が出土したとの噂もある。……()(かん)ながら、吾輩はそれを実見する事は叶わなかったが、情報提供者はそれをその目で確認したそうだ」



 ……その後の騒ぎについて、ここでこれ以上の贅言(ぜいげん)を重ねる必要は無いだろう。


 富裕層並びに市民層の共感を得たと判断したレムダック卿は、彼らの圧力をバックとして、現国務会議の追及に臨んだ。イラストリアでもマナステラでも古代の遺跡や秘宝が発見されているというのに、我がマーカスでは一向にそういう話を聞かぬ。マーカスが隣国の後塵(こうじん)を拝する羽目になったのは誰のせいか。歴史学・考古学の分野を(おろそ)かにした現国務会議こそが、その不手際の責めを負うべきではないのか――と、盛々大々にぶち上げたのである。

 今も昔も西も東も、お上の失態が下々の大好物というのは世の常である。そこは王制国家の事だから、さすがに市民からの退陣要求までは出なかったが、レムダック卿をはじめとする非主流派の貴族は大いに気炎を上げる事になった。


 そしてレムダック卿は、〝鉄は熱いうちに打て〟とばかりに、もしくは〝水に落ちた犬はすかさず叩け〟とばかりに、時機を逃さずに次の手を打った。



「国務繁多で手が回らない様子の僚友に代わって、我々が私的な遺跡探索隊を組織しようと思う。成果が上がるかどうかは保証できないが、それでもただ手を(こまね)いているだけよりは数段有益であろう!」



 ――()くして、レムダック卿の意気に感じた(?)非主流派の貴族や富裕層がスポンサーとなって、複数の探索隊が編制され、各地へ派遣されたのである。


 護衛としてマーカス国内にいた冒険者を徴用して。

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