第二百九十六章 マーカスを巡って 8.クロウ陣営(その1)
シャノアからその報告を聞いた時、クロウは当惑するしか無かった。
『何だと? マーカスの貴族?』
『うん。精霊門の候補地を探して廻ってると、行く先々で出会すんだって。相手はその都度違ってるみたいだけど』
「隠し金山」の噂のせいでグダグダになってはいたが、マーカス国内に精霊門――兼・諜報拠点――を設置するという方針に変更は無い。その目的のために、マーカス中の精霊が挙って適地探しに駆け廻っていた。
クロウとしては飽くまで「精霊門」としての役目を優先すると考えていたが、精霊たちは寧ろ「諜報拠点」としての機能を重視していた。精霊たちの大恩人にして特撮技術と特殊効果の指導者たるクロウが、マナステラ国内の情報を必要としているのだ。ここで応えなければ精霊の名折れではないか。
発奮した精霊たちが候補地の物色に走ったのだが、そこに待ったをかけたのが他ならぬクロウであった。
諜報拠点の整備は確かに必要であるが、入手した情報を迅速に届ける事ができなくては、折角の情報も宝の持ち腐れとなる。故に精霊門の整備を最優先にすべしと。
そこは精霊たちにも(一応の)良識というものはあるから、街のど真ん中に諜報拠点を開設しようなどという考えは(少ししか)持っていなかったし、既に実績のある街道沿いの休憩地を狙い目としていたのであるが、クロウの指導宜しきを得て、精霊たちの移動を最優先に考えた場所から始める事にしたのであったが……
『それで、あまり人間が立ち入らないような場所で候補地を探してたんだけど』
『案に相違して、そこへ人間どもがやって来るようになった――と?』
『うん』
これが一度や二度の事であれば、偶然という解釈も出来ようが、
『三回四回と続き、しかも毎回顔ぶれが違っていたとなると……』
そこには偶然以外の説明が必要になる。
『昨今の……事情を……考えれば……簡単な……説明は……』
『金鉱探しじゃなぃんですかぁ?』
『でも、「岩窟」のある場所から離れてるし、川だって流れてない場所なのよ?』
『『『『『う~ん……?』』』』』
マーカスの「隠し金山」に関しては、「岩窟」内にあるという噂の他に、砂金由来という話も一緒に流布している。なので狙うなら「岩窟」の傍か、でなければ川沿いというのが定番化している。
なのに、その何れの条件も満たしていない場所にまで、複数のパーティが出没している。……成る程、これは確かにおかしな話だ。
『盗み聞きって話も出たみたいなんだけど……ほら、精霊たちって、サウランドの森で鬼火と間違えられたばかりじゃない? またしても変な誤解をされたら拙いって思ったみたいで、闇精霊の子が来るまで待つ事にしたんだって』
『賢明な判断だな』
『うん。それで闇精霊の子が、声が聞こえるギリギリまで近付いて聴き耳を立ててたんだけど、あまり参考になりそうな話が聞けなくて。ただ、「遺跡」とか「お宝」っていう言葉が頻りに出てきた――っていうのが報告の内容なの』
『ふむ……?』
『他の場所でも聴き耳を立ててみたけど、似たような結果になったんだって』
『ふむむ……?』
これがマナステラでの話なら、先頃オープンしたばかりの「盗掘者のカタコンベ」に関わる事だと判断できるが、実際には現場はマーカス国内であって、しかも複数の地点で同じ内容が確認されたのだという。
マーカス国内で〝遺跡〟とか〝お宝〟という単語が出てきそうなのは「災厄の岩窟」であるが、現場は何れもそこから離れた場所である。
『あとね、これははっきりと断言はできないんだけど、一行のリーダーは貴族みたいよ』
『貴族?』
『こんな僻地に?』
『お貴族様が直々に?』
『ハンスさんみたいな変わり者って事?』
『しかし……複数の箇所でそういった人物が確認されているといたしますと……』
『能く解らんが……マーカスの貴族どもが揃いも揃って、急に骨董熱に浮かされでもしたか……?』




