第四十五章 シャルド 6.王都イラストリア
王都編です。段々困惑の度合いが深まります。
「聖魔法で封印されたダンジョン……だと?」
シャルドからの通信に頭を抱えた第一大隊の指揮官二人だったが、今回ばかりは同じ内容の、いや、ある意味それよりも厄介な内容の通信に頭を痛めている人物が一人いた。ここ、宰相執務室の中に。
「……パット(パトリックの愛称)、もう一度言ってくれるか? 聖魔法で封印されたダンジョンの中に入る、そう聞こえたんだが?」
『なら、お前の耳はまだ遠くなっちゃいないな。確かにそう言ったとも』
通話の相手はシャルドの遺跡発掘団リーダーのパトリック・ハーコート卿である。
「あからさまに怪しい遺跡の中に! 文弱な学者ふぜいが! 真っ先に入るなど! 許されるわけがなかろうが! 儂の耳がおかしいんでなければ、貴様の頭がおかしいんだ!」
『落ち着け、ライル――宰相の名前はライル・ライオネル・カーライル――よく考えろ』
「儂は落ち着いとる! 血迷うとるのは貴様の方だ!」
『あのな、ライル、俺は別に先陣切って突っ込むと言ってるわけじゃないぞ。ただ作業員を入れる前に、ここにいる面々で簡単な予備調査が必要だ、そう言ってるだけだぞ?』
「……だとしても、なぜだ?」
『怪しい遺跡と言ったのはお前だぞ? そんな所へ作業員を送り込めるわけがないだろうが。まず、内部を確認してからだ。大体、扉の向こうがどうなっているのかも判らんのだぞ? 何名の作業員が必要なのかも読めんだろうが』
てっきり好奇心――学者としての――に駆られての発言と思っていたが、想像よりも筋道立った返答を聞いて、しばし宰相は考え込んだ。
確かに、扉の奥がどうなっているかも判らない現状では、作業員の手配もしづらいのは事実。兵に確かめさせる必要はあるが、今現在の兵士にその能力があるかどうか、これは又従弟に確かめねばなるまい。
「……だが、なぜ貴様が入る必要がある?」
『あの遺跡が一体何なのか、国軍の兵士に判るのか? 今現場にいる者の中では、その判断ができるのは俺しかいないだろうが♪ それとも、新たに専門家とやらを選んでいる時間があるのか?』
「……ここで即答はできん。将軍や陛下に諮ってからだ。仮に許可が下りたとしても、兵士が先に入って安全を確認した上の事だ」
『もちろんだ♪』
「それと……スパイン教授の同行は許可できん。これは陛下に諮るまでもない。運動神経の衰えた老人の突入など、万一を考えると許可できん」
『そりゃ……俺には説得できそうにないな。通話を代わるから、そっちで説得してくれ』
通話を代わったスパイン教授との激しい遣り取りの結果、宰相の懇々とした説得――(よぼよぼの爺ぃが何ほざいてんだ。こりゃ、貴様の道楽じゃねぇ。国家の政策が絡んでんだ。先陣についてはさっさと諦めろ。嫌ならメンバーチェンジしてもいいんだぞ? ああん?)――を渋々受け容れて、先発メンバーはスパイン教授に同行した若い魔術師が務める事になった。
その日、緊急の会議――とは言っても、参加者はいつもの面々のみ――がもたれた結果、ハーコート卿の提案と宰相の修正案は受諾され、現場のメンバーによる予備調査の決行が決まったのであった。
明日で本章は一応終わりになります。シャルドの話の続きは少しだけ後回しになります。




