第二百九十六章 マーカスを巡って 3.マーカス国務会議(その3)
そこまでのリスクと引き換えにするのはどうか――という話になり、
「つまり、結論としては③のプロセス、すなわち〝追い払われた連中が隣国マナステラに向かう〟のを阻止するべきという事になる」
ドヤ顔で辺りを見回す男を見て、一同は困惑の表情を隠せない。議論の筋道としてそうなるのは解ったが、では、具体的に何をどうすればいいと言うのだ。
「さぁ?」
「さぁ……って、貴公……」
「それくらいはそっちで考えてくれ。自分としてはここまでの筋道を付けたのだから、後は貴公らが受け持つの言うのが筋ではないか?」
身勝手な発言に一同唖然とし、次いで口を揃えて毒づいたものの、相手は馬耳東風と聞き流しているし、その言い分にも一理あるのは否めない。ここは議論の進展に力を尽くすのが建設的だろうという話になる。
「……先例に倣って単純化して考えてやるとだ、マナステラ以外に冒険者たちの行く先を用意してやればいい――という事になる」
「それは……」
「理屈としてはそのとおりだが、実際にはどうする……いや、どうできると言うのだ?」
問題点を具体化できた事で、俄に議論が活溌になった。
「要は冒険者どもを誘き寄せるエサか……」
「そこに〝欲の皮の突っ張った〟という条件が付くがな」
「そんな連中が喰い付きそうな場所と言えば……」
「やはり〝金が得られる〟場所だろう」
「しかし……金鉱として有望そうな場所が、我が国にあったか?」
「或いは、尤もらしく聞こえる場所でもいいが」
「我が国はどちらかと言えば平地が多いからなぁ」
金鉱がありそうな、或いはそれを装えそうな場所が望み薄となり、次善の候補地の物色が始まる。
そこで引き合いに出されたのは、テオドラム王国における古生物学の泰斗・アインベッカー教授の発言であった。
「テオドラムの学者の考察に拠ればだな、砂金の堆積場所としては、川が湖に注いでいる場所などが狙い目らしい」
「我が国でめぼしい湖と言うと……」
「『誘いの湖』……」
「却下だ」
「……いっそ岩窟の探索に徴用するというのはどうだ?」
「駄目だな。やつらが求めているのは、文字どおり一攫千金の稼ぎ場だ。地道な探索になど気を惹かれないだろう」
「というかだな、万が一にも砂金の件に関わりそうな場所に送り込むのは、どう考えても拙いだろう」
「だったらどうする? テオドラムに倣って公共事業でもぶち上げるか?」
「目下の状況からすると、候補となりそうなのはニーダムの工事現場だが……」
「あそこは元凶たる砂金の保管地だぞ? そんな剣呑な場所に送り込めるか」
アイデアが出されては没になり、何の進展も見られないままに会議は時間切れとなった。疲労感と無力感に襲われる国務卿たちだが……遠からぬ先に彼らの悩みがスッパリと解消され……そして、それと共に新たな頭痛のタネが芽生える事など、この時の彼らに知る由も無いのであった。




