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第二百九十六章 マーカスを巡って 2.マーカス国務会議(その2)

「……冒険者ギルドは何と言っているんだ? お手上げを表明するだけか?」

「いや、一応ギルドとして正式な勧告……と言うか警告は出すそうだ。素直な奴らに対しては或る程度の効果も見込めるだろうとの事だが……それ以外の札付き連中に対しては、どれほどの実効性を持つか保証できんとも言っていた。まぁ、何かしらの対策は採るという(げん)()はもぎ取ってきがな」

「限定的であれ、幾許(いくばく)かの牽制は見込めるというのだ。今はそれだけでも良しとすべきだろう」



 力無く述べられた結論に対して、



「全く……ただ蹴散らして済ませる事ができるなら、どれだけ楽か」



 一人が憤懣(ふんまん)山盛りてんこ盛りといった声で不満を呈するが……そう、どうしてそれで済ませる事ができないのか。

 その疑問に対する答えは、図らずも別の男のぼやきによって語られる。



「……仕方あるまい。()(かつ)に追い散らした日には、やつらは又候(またぞろ)マナステラへ向かうぞ? 我が国が()(てい)破落戸(ごろつき)どもを隣国に(けしか)けている……などという誤解を招く訳にはいかんのだ」



 ――そう。これこそがマーカスを窮地に追い遣っている二次的な厄介事であった。


 要するに、隣国マーカスが山師どもに荒らされ、その責めを負わされるのは(たま)らない――と考えたテオドラムの国務卿たちが、冒険者の向かう先としてマナステラ――テオドラムから見れば隣国の更に隣国。つまりは赤の他国(・・)――を示唆してやったせいで、噂に踊らされた連中はマナステラへの指向を植え付けられていたのである。

 そんな連中をマーカスから追い出せば、そりゃ次なる本命であるマナステラ――註.流民視点――へ向かうに決まっている。


 状況を(いぶか)ったマナステラからの問い合わせによってこの事を知ったマーカス首脳部は――テオドラムの配慮(笑)とは異なって――以後の対応に苦慮する羽目になったのである。



「マナステラには事情を説明したのだろうな?」

「当然、釈明の親書を送った。……それで納得してくれたかどうかは定かでないがな」



 どうやら背後にテオドラムの暗躍があったらしいが、テオドラムが何故そういう真似をしたのかがとんと解らず、マナステラの側も疑念を抱いたようだ。

 マーカスとしては、マナステラに含むところなど()(じん)も無いが、()りとて砂金の事まで明かす訳にもいかず、どうにも煮え切らない説明になってしまったのは致し方無い。(ひっ)(きょう)、マナステラの疑念を完全に氷解させるには至らず、国交上に小さな(しこ)りを残す事になった。

 これに関して外務卿は懸念を表しているが、事が事だけに軽々に明かす訳にもいかず、マーカス首脳部の頭痛のタネとなっている。



「……マナステラとの国交改善は後で考えるとして、先に冒険者どもへの対処を決めるべきだろう」

「その意見には(もろ)()を挙げて同意するが、具体的に何ができるというのだ?」



 半信半疑どころか三信七疑という感じで問い返されたが、言い出しっぺの男も、何の考えも無しにこんな事を言い出した訳ではないようだ。



「問題を単純化して考えてみたのだがな、この問題の要点は、①山っ気のある連中が我が国に集まって来ているが、②我々としては『岩窟』の近くからは追い払いたい。しかし③追い払われた連中が隣国マナステラに向かうのは避けたい――という点にあると思う」

「まぁ……単純化して考えるならそうだろうな」

「そうするとだ、この流れを止めるには、①~③の(いず)れかを止めてやればいいという事になる。このうち②を止める事はできておらんのだから、我々が関与すべきは①か③だ」

「うむ……」

「まぁ、そういう事になるだろうな」



 議論の行き先にそこはかとない不安を覚えつつも、一同はとりあえず(うなず)きを返した。



「まず、①のプロセスを止める事から考えてみよう。詰まるところこれは、テオドラムの冒険者の入国を拒否するという事になるが……」

「外務の者としては賛成できんな」



 外務卿と(おぼ)しき男からピシャリと反論が出されたのに加え、別の人物が別方面からの問題点を指摘する。



「冒険者ギルドの主張するところに拠るとだな、冒険者は――犯罪などの行為によって拘束された場合を除き――何人たりともその行動を止める事はできない……という事になっている。……下手をすると、冒険者ギルドを敵に廻す事になるぞ」

拙作「ぼくたちのマヨヒガ」、本日21時に更新の予定です。今回は四話構成となります。宜しければこちらもご笑覧下さい。

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