第二百九十五章 サウランド~猜疑は踊る~ 15.クロウ陣営(その3)【表あり】
会議は踊る……と言うか、ブレイクダンスやパルクールも斯くやと言わんばかりに暴走し始めた様子を見て、このままでは収拾が付かなくなると懸念した爺さまが掣肘を加え、それを容れてクロウたちはもう少し現実的に、自分たちの立場からこの問題を捉え直す事にした。
『大きく分けて、俺たちが採り得る対処法は三つあると思う』
『三つ……ですか?』
『あぁ。①このまま何もしない場合、②洞窟のようなものを造る場合、③洞窟のようなものを造りはするがそれを埋める場合――の三つだな』
『はぃはーい! ③番目のやつって、マナステラに造ったダンジョンみたいなのですか!? マスター』
『いや、どっちかと言うと、ヴァザーリで精霊門を開いた場所のようなものをイメージしている』
『あ! 「銭形ケイヴ」ですね!』
『……「コインの洞窟」という名前だったように思うんだが……まぁそれだ。これらそれぞれの場合において、俺たちが受けるであろう影響を考えてみたい』
熱の籠もった討議が交わされた結果、クロウたちが被るであろう影響は、概ね以下のようになると予想された。
まず①の場合、ダンジョンの跡地や候補地となる物件は当然発見されないから、金銀財宝は無論の事、ダンジョン化によるリスクも発生しない。人や物の動きに対する影響は、最低限に抑えられる。と同時に、国境林に立ち入ろうというインセンティヴも生じないため、クロウたちが監視拠点を構えるのに支障は無い。
その一方で、グレゴーラムの兵士たちを襲ったものについての説明は付けられないので、潜在的な不安を胚胎した状態が続く事になる。
それがために、何か見つかるまで調査の範囲を拡大しよう――という動きが生まれる懸念もある。
次いで②の場合、①とは逆にグレゴーラムの件については一部説明が付くが、そこにいた筈のモンスターがどこへ行ったのかという謎は未解明のままになる。と同時に、「ロスト・ダンジョン仮説」も「プロト・ダンジョン仮説」も棄却されないままに残るため、今後も林内への立ち入り調査が続く公算が大きい。
クロウたちにとってみれば、総じて益の無い対処法であると思われる。
最後に③の場合、手間暇が一番かかるというデメリットの他にも、「ロスト・ダンジョン仮説」が棄却されないまま残るため、暫くは跡地を穿り返そうとする連中が訪れる可能性がある。そのせいで、偽装の粗が発見される可能性も無いとは言えない。また、一旦はモンスターが棲み付いた場所と見做されるため、「プロト・ダンジョン仮説」に基づいて、定期的な巡視を受ける可能性も捨てきれない。
更に、棲み付いていた筈のモンスターの行方も所在も不明な訳だから、緊張緩和とはなり得ない。
『どの方法を採るにしても、グレゴーラムの件は燻ったままになる訳ね……』
『だが、これで俺たちの採るべき対処法がはっきりした。このまま知らんぷりを続けるぞ』
強いて懸念を上げるとすれば、洞窟が発見されないにも拘わらず、諦めの悪い奴らがしつこく探した場合、捜索範囲の拡大という結果になる可能性が捨てきれない。そうなると、リーロットの傍に開設した精霊門が見つかる可能性はどうなのか。ただ、この懸念については、
『精霊門があるのって、ほとんどリーロットに近い辺りですよね? 幾ら何でも、そこまで探しに行くでしょうか?』
『来たとしても、間抜けな人間どもに精霊門を見つけられるとは思えないわ』
――という反論が出され、それが妥当なものであると認められた事でお蔵入りとなった。もしも探しに来る者が現れたら、それはその時考えればいい。
何ならグレゴーラム兵士の幽霊でもでっち上げて、来た者を脅かしてやってもいいではないか。それなら精霊が目撃された件についても、人魂だとして押し通せそうではないか。
ただ、この提案については、
『亡者の人魂なんかと一緒にしないでよ!』
……という精霊側からの苦情が出た事で立ち消えになりはしたが。
ともあれ、サウランド近郊でのダンジョン仮説への対処について、クロウ陣営では一応の決着を見たのであった。




