第二百九十五章 サウランド~猜疑は踊る~ 14.クロウ陣営(その2)
『腹案と言うか、一過性、或いは移動性のモンスターはどうかと考えているんだが』
『一過性……』
『通り魔みたいなやつですか? マスター』
『言い方はアレだが、まぁそんなもんだ。適当なモンスターはいるか?』
『それはまぁ、グリードウルフなどがそれに当たりますが……』
――問題点が幾つかあった。
・第一に、兵士の一個中隊を殲滅してのけたとなると、一個体ではまず無理な筈で、相応に強力な群れであった公算が大きい。
・第二に、証拠湮滅の観点から、一個中隊分の屍体の多くを持ち去っている。モンスターにその原因を求めるとなると、食い尽くしたという説明を採らざるを得ない。
まぁ実際には、「霧」というこちらの手の内を明かさないため、同士討ちによる屍体を持ち去っただけで、遠征して来たピットのモンスターが仕留めた分は敢えて残し、モンスターによる攻撃だとの誤解を助長したのだが。
『これらの条件を満たすとなると、どうしても大規模な群れを想定せざるを得ません。そうなると……』
『……当然、人目に付く確率も高くなるか』
『それが偶々通りがかった……というのも説明が苦しくないですか?』
『うむ……』
結局、それなりに問題点はあるものの、ダンジョンという説明が一番無難という事らしい。
『しかしだな、そんな危険なダンジョンがサウランドの近くにあるとなると、安全保障という観点から、テオドラムだけでなくイラストリアまでが動きかねん。交通・流通にも悪影響が出るし、それは色々と拙いだろう』
今までは問題が表面化しなかったため見過ごされてきたが、事ここに及んではそれも望めまい。何か落とし処を作ってやる必要があるのではないか?
『マスター! こういう時こそ、映画の出番ですよ!』
『……映画だと?』
発言者の普段が普段なので、クロウをはじめ同僚たちも、疑わしげな視線を投げかける。
『えっとぉ……キーンが「映画」っていぅからにはぁ』
『特撮映画だよね? ……怪獣映画?』
『そう! 凶悪な怪獣が、突如として現れる理由と来れば、これは眠りから醒めた太古の怪獣……というのがお約束!』
熱弁を振るうキーンの迫力に一旦は圧倒されたものの、即座に幾つかの反論が出される。
『いやでも、あそこには火山の噴火口とか無いし』
『氷河も無いから、氷漬けになってたっていう説明も無理じゃない?』
『ミイラを水に漬けたら復活したとか?』
『岩塩に閉じ込められていた――というのはどうですか?』
『あそこにゃ岩塩坑なんて無ぇだろう』
『塩漬けだと、水に漬けて戻す必要があるんじゃない?』
『休眠していた種子が芽を出したとかは?』
『それって、蓮か何かじゃなかったっけ』
『宇宙から飛来した隕石に付いていた――っていうのは駄目かなぁ』
『いっそ……不法な実験で……巨大化した……実験動物が……逃げ出した……とか』
『それをやるのって、悪の秘密組織でしょ? 疑われるのは「シェイカー」じゃない?』
『あー……だったら、改造人間の復讐とかは?』
『え? テオドラムが人体改造実験をやってた事にするの?』
『……それって、ノンヒュームの奴隷をアレした傀儡の事? アレを言いだしたら、それこそノンヒュームが黙ってないと思うけど』
『奴隷取引が下火になったせいで、テオドラムもあれから悪さは進めてないみたいだけど……』
『ここであの話を持ち出したら、暴発待った無しの気が……』
収拾が付かなくなりかけたところで、クロウによる疑義が呈される。
『――いやちょっと待てお前ら。怪獣が現れた理由はともかくとしてだ、それが忽然と消え去った理由も必要なんだぞ?』
この……筋の通ったようなピントのずれたようなコメントを受けて、議論は更なる紛糾に向けて突き進む。
『映画とかでぇ、怪獣がぃなくなる理由っていぅとぉ』
『巨大ヒーロー!』
『あとは、怪獣同士のバトルとか……』
『却下だ!』
『なら、超兵器? G衛隊とか防衛軍とかの』
『オキシジェン・デスト○イヤーとか冷凍光線とか……』
『あ、バクテリアっていう手も。体内のエネルギーを食い尽くす』
『そんな生物兵器を野放しにしてどうするのよ……』
『外来生物法に引っ掛かったりしない?』
『この国にはそういうのはありませんから』
『抑じゃ、そんなゲテモノ兵器をどこから都合して来るつもりじゃ? お主ら』
『えっとぉ、魔道具とかぁ……』
『マスターの錬金術で、どうにかなりませんか?』
『『『陛下! 是非とも開発を!!』』』
『無茶言うな。……巨大ロボットぐらいなら、ゴーレムでどうにかなるかもしれんが……』
『『『陛下!』』』
『お主ら……ちっとは自重という言葉を憶えんか!』
『巨大兵器は……やはり……無理がある……でしょう……』
(『コアなファンには受けるんだけどなー……スーパー×とか……』)
『キーン……あなた、いい加減にしなさいよ』
『ヒーローと怪獣と超兵器が駄目となると』
『現有兵器で何とかするしか無いって事かー』
『弩と投石機と破城槌で?』
『あとは魔法とか』
『あ、ワイバーンによる航空攻撃とか……』
『却下だ』
『あとはぁ、火山の火口にぃ、落っことすとかぁ』
『この国にそんなもなぁ無ぇよ』
『あ、氷河とか雪崩に埋めるっていうのも』
『あの……だから、少なくともあの辺りには、氷河も万年雪もありませんから』
『だったら地割れに落っことす?』
『そっちの……被害の……方が……大きいでしょう……』
『あー……えーと、交信音で湖に誘導して、溺れさせるっていうのは?』
『また……豪く古いネタを持ち出したな』
『この辺りに、適当な湖ってあったっけ?』
『それだと……候補地は「誘いの湖」って事になりませんか?』
『国際問題が勃発するわね……』
感想で〝ノンヒュームの傀儡〟の件はどうなったのかとのご質問を頂戴しました。あの件は本作の終盤への伏線とするつもりで、敢えて言及を控えておりましたが……その〝終盤〟に至るのが何時になるのか怪しくなってきましたので、ここで少しばかり触れておきます。




