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第二百九十五章 サウランド~猜疑は踊る~ 13.クロウ陣営(その1)

『テオドラムの糞っ垂れめが! あの国は上から下まで(ろく)でなししかおらんのか!?』



 本拠たる「はじまりの洞窟」で盛大に毒づいているのはクロウである。彼がこれほど立腹している理由は言うまでも無く、サウランド近郊の国境林に降って湧いた二つのダンジョン仮説にあった。


 何かと面倒を引き起こしてばかりのテオドラム――註.クロウ視点――の動きを監視するために、サウランド近くの国境林に監視拠点を設けようという案が出されたのと相前後して、今更のように蒸し返されたグレゴーラムの一個中隊壊滅に絡んで、(くだん)の森にダンジョンがあるという与太(よた)(ばなし)が持ち上がった。

 これだけでもクロウの神経を逆撫でしたのだが、その後のサウランド冒険者ギルド当局の善処によって、当該地区にダンジョンは無い事が証明された。クロウとしても憤懣(ふんまん)を抑え、そして少しばかり胸を撫で下ろす結果に終わったのであった。


 ところが……何をとち狂ったのかテオドラムの破落戸(ごろつき)二人組が、森にあるのは()きダンジョンではなく、死んだダンジョンの抜け殻である。そしてそこには、ダンジョンが貯め込んだお宝が眠っているに違い無い……という、噴飯ものにして脱力もの、そしてクロウの立場からすると(かん)(しゃく)ものの妄説を()()げて、国境林を彷徨(うろつ)き始めたのだ。


 だが……そこまでならまだクロウの許容範囲であった。


 クロウを激怒させたのは、この二人が――不審の(かど)ありとして――サウランド当局に連行され、そこで()(せつ)をベラベラと(しゃべ)りまくった点にあった。


 大体、隠された財宝を探し出そうというのに、情報の秘匿に注意を払わないとは何事か。余計な疑いを抱かれぬよう、慎重の上にも慎重を重ねて探索に当たるべきではないか。(あまつさ)え拘引された先で、秘すべき情報を(あら)(ざら)()いてしまうとは。トレジャーハンターの風上にも置けぬではないか。

 彼らの「ロスト・ダンジョン仮説」に感化されたのか、サウランドの連中も「プロト・ダンジョン仮説」なんてものを発想に及ぶし、クロウとしては迷惑の極みである。


 ……()(マン)の話はさて()くにしろ、しがない冒険者が二人で探すのと、サウランド当局が本腰を入れて探すのとでは、探索の精度・速度・範囲ともに大違いである。それはつまり、その分だけクロウの自由度が削られる事を意味する。

 そして何より、()(くず)しに終わる筈だったサウランドの「幻のダンジョン」問題が、もはや見過ごされる状況ではなくなった事こそが大問題であった。



『何かの手を打つべきなのかもしれんが……』

『間に合うの? クロウ』



 何か手を打つのなら、サウランドの当局が動き出す前に済ませておかねばならない。となると、時間的な猶予はあまり無いのではないか?



『……いや、サウランドの当局が動くとなると、その陣容も大掛かりなものとなる筈だ。準備にもそれなりの時間が掛かるだろうから』



 大仕掛けでなく小細工ぐらいなら、仕込む余裕は(ひね)り出せるかもしれない。だとしても、凝った細工を仕込む余裕は無いだろうが、



『そもそもぉ、何かする必要ってぇ、あるんですかぁ?』



 ――ライが呈した単純な疑問が、この問題の根本に横たわっていた。



『何もせずに放って置くというのも、それはそれで一つの手だと思うけど……』

『けどさ、モンスターの隠れ家みたいなのが無いと、おかしいと思われるんじゃない?』

『いや……あの時(・・・)の目撃者はほとんど始末したし、生き残った者からも、まともな証言は得られないかと』

『まぁ、実際に一度は、それで有耶無耶(うやむや)になりかけた訳だしねー』

『それを又候(またぞろ)穿(ほじく)り返そうってんだから、今度ぁそれなりの結果が出ねぇと、おいそれたぁ引き下がらねぇんじゃねぇか?』

『けれど……ダンジョンのような……ものが……あったらあったで……執拗な……調査を……引き起こしませんか……?』

(すこぶ)るありそうな話に聞こえますな』

『けど主様(ぬしさま)、その洞窟とかって、サウランドの近くになきゃいけないんですか?』



 この、或る意味で素朴な質問は、クロウはじめ居並ぶ一同の意表を()いた。


 ……そう言われれば、クロウたちの監視拠点予定地がサウランドの近くであるだけで、別に「幻のダンジョン」――改め「ロスト・ダンジョン」もしくは「プロト・ダンジョン」――までがそうだと決まった訳ではない。



『……何となく、そうだと決めてかかっていたけど……』

『場所につぃてのぉ、制限はぁ、無かったよねぇ』

『けれど……元々が……グレゴーラムを襲った……モンスターの……(すみ)()というのが……発端ですから……』

『あまりグレゴーラムから遠離(とおざか)る訳には参りませんかな』

『けど、モンスターの移動能力も考えないと』

『……いや待て。あまりサウランドから離れると、修道会の緑化作業中に気付かなかったのかと追及されるんじゃないか?』



 クロウが呈した懸念に、それがあったか――と言いたげな眷属たち。念のためノックスに念話を繋いで確かめてみると、面倒臭い事になりそうだったので、サウランドの近くまでは緑化していないとの返答。まぁ表向きには、グレゴーラムの惨劇を警戒してという口実で通したそうであるが。

 


『そぅするとぉ』

『緑化地までが候補の範囲という事になりますな』

『恐らくは……サウランドの調査隊も……同じように……考えるでしょう』

『それでもまぁ、そこそこの範囲にはなるじゃろうがな』



 その範囲内で条件に合う場所を探して、そこに崩れた洞窟のようなものをでっち上げる。人の立ち入りは稀な方が好いから、(むし)ろグレゴーラムに近い場所の方が好都合か……


 などと一同が思案していた矢先に、その根本を引っ繰り返すような発言をかますのがクロウである。



『いや……前々から思っていたんだが、ダンジョンの適地だろうが跡地だろうが、本当に必要か?』



 今更何を言い出すのかと、一同()(ぜん)として見守る中で、



『欲を掻いたテオドラムの冒険者(バカ)はともかく、世間的に必要なのは、グレゴーラムの一個中隊を襲った「何か」の整合的な説明であって、それがダンジョンである必要は無いだろう』



 眷属たちは顔を見合わせるが、これはクロウの言い分に一理がある。



『そこまで言うなら、何ぞ腹案があるのじゃろうの?』

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