第二百九十五章 サウランド~猜疑は踊る~ 9.アムルファン商業ギルド視察団(その3)
あまりと言えばあまりな〝妄想憶説〟ではあるが、軽々に切り捨てては拙いような気がしないでもない。
「まぁ、だからと言って、我々に何ができるという訳でもないが。ただ……テオドラムの動き次第では……」
「我々もそれ相応の動きが必要になるか……」
抑の話、アムルファンが視察団派遣などを企図したのも、テオドラムとの関係を如何にするべきかと思案に迷ったためである。そのテオドラムが先の見えない三正面作戦に踏み込むにせよ、首尾好くロスト・テクノロジーという果実を手にするにせよ、アムルファンはテオドラムとの関係を再考する必要に迫られよう。
「……ともあれ、今は静観を保つしか無いな」
「あぁ、何であれ迂闊に働きかけるのは大悪手だろう」
「それが判っただけでも、ここへ来た甲斐があったというものだな」
――と、話はこれで終わったかに思えたのだが、
「……それとは少し外れるんだが、少しばかり気になる事があるんだが……」
……と、言い出した者がいた事で、一同は緩んだ気を再び引き締める。
「気になる事?」
「何だ?」
「いや、そこまでの大事ではないんだが……金鉱の噂について、テオドラムの謀略だとする感じに終わったのが、な。マナステラでは実際に金細工が発掘されているのだろう?」
話を蒸し返された事で、一同は虚を衝かれたように黙り込んだ。
「確かに……」
「それほど高価なものは見つかっていないそうだが……」
「〝金〟という要素が出てきた以上、無視はできんか」
「いや、それは寧ろ逆だろう。市井の民の副葬品にすら金が使われていたという事は……」
「あ……」
「……金という素材がそれだけ普及していた。言い換えるなら、金が豊富に流通していた」
「金の鉱脈が近くにあったから……という説が成り立つ訳か……」
「そうなると、あの金鉱の話にも信憑性が出て来るな」
「だが……それが事実だとすると、テオドラムはなぜこの話を広めた?」
「どうせ自分たちの手には入らんと割り切って、目眩ましのネタに使おうとしたのではないか?」
「確かに……事実なればこそ、目眩ましの効果は大きいと言える」
「となると問題は……テオドラムはどうやってその事を知ったのか」
――浮世離れした学者と兵士の討論……と言うか、机上の空論からである。
「……詳しい次第は知る由も無いが……案外情報の出所は、ロスト・テクノロジーの情報と同じところなのかもしれんな」
「都合の好い解釈をでっち上げているようにも聞こえるが?」
「不可解な情報の不可解な出所が幾つもある……というよりは現実的だと思うが?」
「むぅ……そう言われれば……」
……何か詭弁で丸め込まれたような気がしないでもないが、説明は可能な限り単純にするのが原則である。少なくとも、解釈としては成り立つようだし。
「まぁ、その件についての追及は、後日に廻していいだろう。どのみち我々が関与できそうな話ではない」
「……確かにな。益体も無い事に頭を使うのは、時間と労力の無駄だ」
「うむ。何せ我々は〝利に煩い〟商人なのだからな」
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