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第二百九十五章 サウランド~猜疑は踊る~ 6.サウランド当局(その2)

 テオドラムの冒険者二人組は、〝お宝〟というものに注意を奪われていたせいで、〝崩壊後のダンジョン跡地=「ロスト・ダンジョン」〟という発想から抜け出せなかったようだが……これを「プロト・ダンジョン」として捉え直すなら、それはつまり〝ダンジョンシードが未侵入のダンジョン適地〟という事になる。

 そんな――いつダンジョンとなるかも知れぬような代物が近くにあるというのは、サウランドの安全保証を考える上で、充分以上に不穏当である。



「……言葉遊びはともかくとして、そんなものがそう都合好くある訳が――」

「無くはないだろう。シャルドの遺跡という実例がある」

「「「「「あ…………」」」」」



 ただの臆測――現代表記では「憶測」と書く事が多いが、「臆」には〝恐れる〟の意味もある――かと思いきや、厳として存在している実例を挙げられた事で、単なる虚説であったものが実の(かげ)を帯び始める。



「……長きに(わた)って外界と隔離されていた洞窟、ないしは遺跡か?」

「確かにそれならダンジョンシードは侵入できないか……」

「だが、グレゴーラムの変事を説明するためには、そこにモンスターが棲み付いていなくてはならんぞ?」

「あの事件の少し前に開口部ができて初めて、モンスターが棲み付けるようになったのかもしれんぞ? マナステラからの報告には目を通したか?」

「あぁ、あの話があったな……」



 マナステラの冒険者ギルドが古代の墓地遺跡の存在と、そこで発掘された(金目の)出土品の事を報告(せんでん)して寄越(よこ)したのは、つい五日ほど前の事。ビーツたちが最初に発見してから数えても二週間と経っていない。異例なほどの快速であった。


 何しろ発見されたのが、ダンジョンとは思えない石窟(せっくつ)遺跡で、モンスターの痕跡は足跡だけ。おまけに遺跡の第二層からは、副葬品と(おぼ)しき〝金目の物〟が出土している。

 ダンジョンではなく、危険なモンスターの存在も――ギルドの調査が入った時点では――確認されていないため、この「墓地遺跡」に冒険者ギルドが関与する口実が見当たらない。

 にも(かか)わらず、〝お宝がザクザクと出土しそうな〟この遺跡を発見したのが冒険者であったため、下手をすると墓荒らしの責任だけを押し付けられる(おそれ)すらあるという……冒険者ギルド視点で見れば特級の厄介物であった。


 注意を喚起する――と同時に、何か起きた時の責任を分担させる――という名目の(もと)に、マナステラの冒険者ギルドはこの一件の次第を他所(よそ)のギルドにも通達したのである。この件は現在ギルドの機密扱いになっているという一言も添えて。


 ……そう遠くない将来、()りに()って地元マナステラの冒険者コンビが掘り当てたお宝の噂が広がるに至って、当局が激怒と(せっ)()扼腕(やくわん)の限りを尽くす事態となるだけでなく、(いたずら)に地元の財宝を流出させたという事で、領主や国との関係までおかしくなりかけるのだが……まぁ、それは余談である。今はサウランド当局の会話に耳を傾けるとしよう。



「……報告に()るとマナステラの洞窟遺跡は、長い間入口が閉ざされていたらしい。そのせいか、入口から入って来たモンスターは多くないようだ。……他に入口があるのかもしれんが、とにかくマナステラの事はどうでもいい。

「我々が今問題にすべきは、(しか)るべき規模の洞窟が長期間封鎖される可能性があるという、その一点だけだ」



 〝他所(よそ)他所(よそ)、うちはうち〟――とばかりに、面倒な議論を一切棚上げにして、〝可能性〟だけに論点を絞ろうというのであろう。まぁ、議論の紛糾を避けようというのなら、方針としても悪くはない。どうせ現段階で論じるのは仮説だけだ。



「……ともかくだ、そういう厄介物件の存在が想定される以上、サウランドとしても改めて確認を急ぐしか無い。……意味深な暗合(あんごう)もあった事だしな」

「暗合……?」

「……あぁ、マナステラでも怪光の瞬きが確認されたという話だったな」

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