第二百九十五章 サウランド~猜疑は踊る~ 4.クロウ陣営(その2)
話に出て来た〝出入口問題〟とは、国境林に開設を予定している監視拠点の出入口、それをどのように擬装するかという事である。
窖に擬装するというのが定番なのだが、今回は既に調査が入った後なので、なぜそれを見逃したのかと不審を抱かれる虞がある。ケイブバットやケイブラットが出入りするような小さな開口部なら問題は無いが、それだと運用に制限がかかる。
せめてもう少し大きなものは無いかと物色していたところ、見つかったのが巨木上部にできた虚。とりあえずこれをゲートに利用してみたのだが……入口が少し狭いからと、「透明ボール」の技術を応用して入口の空間を拡張したところ、シャドウオウルの体躯でも問題無く通過できるようにはなったのだが……
『傍から見ていると、物凄くシュールなヴィジュアルでございましたな』
『空間が……歪んでいるのが……丸わかり……でした』
認識阻害か何かが必要だろうという話になったのだが、それを常時展開していると、魔力の動きで気取られる可能性がある。使用する時だけ阻害をかけるという手もあるが、そうなると今度は使用前に周囲を確認する手順が必要となり、運用の手続きが煩瑣になる。もっとスマートな解決法は無いものかと、皆で知恵を絞っていたところなのだ。
『けど主様、そうしたら今度は〝そんな大きな洞窟を、前回の調査で見過ごした理由〟というのが必要になりませんか?』
『それなんだよなぁ……』
『この前に来た連中は、何やら魔道具を使っておったじゃろう。仔細に地形を調べるような真似はしておらなんだ。そこを衝く手はありはせんか?』
『少し見ただけだと見つかりにくい場所か……』
『「カタコンベ」みたぃにぃ、入口が埋まってたとかぁ?』
『あぁ、確かにその手は……』
『入口が半分埋まってて見落とした――っていうのは、使えるかもですね、マスター』
『いや……そうすると今度は、〝グレゴーラムの兵士を片付けるような屈強なモンスター〟が、体格の問題で出入りできなくなるんじゃないか?』
『そこはこじつけ次第じゃろう。あの件の後に崩れた事にするとか』
『そうすると……半年か一年ほど……前に……なりますか……』
『土魔法の痕跡を古く見せるというのは、できなくもございませんな』
『あぁ、シャルドでもやったっけ』
無理のない設定にはできるのではないか、少なくとも検討はしておくべきではないかと衆議が一決し、更なる検討に入ったところで、新たな問題となったのが、
『どぅやってぇ、その場所にぃ、誘導するぅ?』
『う~む……意識されないように魅了をかけるか……』
『あ、精霊たちならできるわよ?』
『鬼火に働いてもらう手もあるよね?』
『「カタコンベ」に引き続いて……っていうのは目立たない?』
『でもぉ、あっちよりもこっちの方がぁ、先だよぉ?』
『あー……確かに』
『発光が話題になったのは、こっちが先だっけ』
『ボス、あの連中、「カタコンベ」の事を知ってやすかね?』
『幾ら何でもまだ早過ぎるだろう』
『いえ、提督。冒険者ギルドの関係者になら、既に通知が行っているのではないかと愚考します』
『あ~……確かに』
『この二人組が報告した時点で、ギルドが関心を持つ可能性はあるか……』
『だとしても……怪光案件が……二件続いてというのは……不審を……持たれるかも……しれません……』
『あの……ご主人様。その場合、こっちも墓地とか遺跡とかにするんですか?』
ハンスの問いかけに一同顔を見合わせる。「カタコンベ」を設計施工するに当たっては、かなりの手間暇をかけている。ここでも同じだけの手間暇をかけるのか? それだけの時間的猶予はあるのか?
『そんな手間はかけん!』
――というクロウの力強い宣言によって、新たな課題が浮き彫りとなる。
『怪光の……理由付けには……丁度好いかも……しれませんが……』
『お墓でぇなぃとするとぉ』
『何か共通する理由が必要になる訳よね……』
『あ、「カタコンベ」の二階層って、モンスターが出入りしてるって設定じゃなかかったですか?』
『あぁ……それは使えるかも』
『ふむ……同じようなモンスターを棲み付かせておけば、思考の誘導は可能かもしれませんな』
一同わいのわいのと喧しく検討していたのだが、やがてその検討は不要となる。なぜかと言うと……
『当局に捕まった……? あの二人組がか?』




