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第二百九十四章 「盗掘者のカタコンベ」~新作ダンジョン@マナステラ~ 21.フェザータッチラビリンス(その2)

 おっかなびっくり怖々と帰路を辿(たど)っていたところ、体長二メートルほどのケラのような生き物が、岩の隙間からこちらを窺っているのに()(くわ)した。モルケットというモンスターであるが、幸いにして捕食性ではないため、襲いかかって来るような事は無かった。

 このモルケット、素材を求めて討伐しようとする者はいるが、通常は穴や隙間に潜んで頭胸部のみを表に出しており、しかもその頭胸部が滅法(めっぽう)頑丈ときているため、討伐するのは難しい。どうにかして巣穴から()()り出すしか無いのであるが、そうすると発達した後ろ足で飛び跳ねるか、或いは翅を拡げて飛び去ってしまうため、滅多に狩られる事の無いモンスターである。

 無論、逆さに振っても二人しかいないクラブとペスコの手に負える相手ではなく、互いに警戒しつつも平和裡に別れたのであった。



・・・・・・・・



 持ち前の用心深さと(つちか)った経験、そして何よりも運に助けられて、どうにか第一階層に辿(たど)り着いた……というのが二人の認識であったが、事実は無論違う。折角得られた広告塔を無駄に磨り潰すなど(もっ)ての(ほか)と、クロウがモンスターたちに命じていたからである。


 だがまぁ、そんな裏話は一旦()くとして、ここは劇――ドラマでなくコメディ――の主役たる二人の言動に目を向けてみよう。


 取れるだけのお宝は取ったのだし、こんな物騒な場所からはさっさとおさらばしようと主張するペスコを、何か思うところのあるらしいクラブが引き留めている場面である。



「……多分だが、ここにいる限り危険は無ぇ筈だ」

「ど、どうしてそんな事が言えるんだよ、クラブ」



 あのおっかないモンスターどもが今この時にも、自分たちを狙って襲いかかろうとしているのではないのか。そうではないとどうして言える。



「落ち着いて周りを()く見てみろ。下の階があんだけ荒れてたのに、こかぁ綺麗(きれえ)なもんだろうが」

「あ……」



 言われてみればこの階層には、モンスターの痕跡は無論、戦闘があったような形跡も残っていない。静謐(せいひつ)そのものといった(てい)である。(そもそも)そう言う自分たちだって、ここにいる間にモンスターの接触を受けなかった……どころか、気配すらも感じなかったではないか。



(そもそも)――だ。ここの床は岩盤だろうが。下の階層にいたモンスターが、穴掘って隠れられるような場所じゃねぇ」

「だ、だからここには上がって来ねぇってのか?」

「現に上がって来てねぇだろうが」

「…………」



 不安と事実を天秤(てんびん)に掛ければ、得てして事実の方に傾くのが世の常である。()してその「不安」とやらが確たる根拠を持たぬとすれば尚更の事。更に「事実」が欲の後押しをするというなら、これはもう決定的と言ってよい。

 だが、クラブもさすがに一階層の状況だけを論拠として、安全だの何だのと言っていた訳ではなかった。



「多分だが、こりゃアレだな。あのモンスターども、下の階が美味しい狩り場だって解ってて、縄張りを作ってやがんだ。その縄張りを留守にしてまで追っかけて来る気は無ぇんだろうよ」

「お、美味しい狩り場……?」



 ペスコとしては〝何の〟狩り場なのかが気になるのだが、クラブの方はそんな心情など歯牙(しが)にも掛けぬ様子で、



「おぅよ。そして、ここが美味しい狩り場だってんなら、そんだけ美味しい餌があるって事だ」

「え、餌……?」



 その〝餌〟というのは自分たちではないのかという不安が、(いや)(うえ)にも高まるが、



「馬ぁ鹿。あんなデカブツがゾロゾロと、ここまで通路を辿(たど)って来たってんなら、途中に痕跡の一つも残ってなきゃおかしいだろうが」



 ――と、一蹴される。それだけならペスコも引き下がらなかっただろうが……

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