第二百九十四章 「盗掘者のカタコンベ」~新作ダンジョン@マナステラ~ 18.第三の男たち(その2)
「……上よりゃ格段に広い部屋になってんな」
「け、けどよクラブ、あちこちで酷く崩れてるぜ?」
「あぁ……上と違って崩れ易い岩でできてるみてぇだな」
……繰り返すが、本来この場所にあったのが鍾乳洞であった事からも判るように、この辺りの地質は石灰岩。そこまで崩れ易い地質ではない……本来なら。
しかし、新たなダンジョンのデザイン上、それでは不都合と考えたクロウが、態々土質を改変までして作成したのがここ「盗掘者のカタコンベ」である。地元の人間なら、地質の不整合に気付いて不審に思ってもおかしくない……と、考えるのは二十一世紀の地球人的な感覚である。
抑この世界の山岳はモンスターの縄張りであって、然るべき理由も無しに人間が立ち入る事は無い。そして……地質調査というのはその〝然るべき理由〟には含まれない。その結果この世界では、地質学に関する分野は地球世界よりも遅れている。
なので地元マナステラ出身の冒険者二人も、何の不審も違和感も抱かず、現状を素直に認めるのであった。そして、そんなクラブが下した結論とは、
「……こりゃあアレだな。墓場を拡張しようと掘り拡げたなぁいいが、崩れが頻発したもんで、途中で諦めたってところだな」
完成し供用されていた「納骨洞」が崩落したのではなく、崩落の頻発が原因で造成途中に放棄されたと判断したようだ。モニターを視聴していたクロウたちからは、
『おぉ……そういう解釈も成り立つのか』
『あぁ……証拠品の幾つかが渡ってないから』
『それでも……彼らの立場からすると……論理展開に……破綻は……無いようです……』
――という感心の声が上がっていたりする。
実は第二階層以降は、壁の崩落とモンスターの活動で、遺骨はバラバラになっているという設定になっている。要は墓場としての体裁をとっていない訳だ。冒険者の方も心情的にお宝を回収し易いだろうとの、クロウなりの判断によるものであったが……憖遺骨が残っていないだけに、供用後の墓地には見えなかったらしい。世の中、やってみないと判らない事はあるものだ。
「だ、だったらよ、この先には何も無いって事だぜ?」
ここは単なる工事現場の跡。めぼしいものが残っている訳も無い。せめて上の階層に残っている、被葬者の副葬品でも漁っていくか?
「馬鹿野郎! んな罰当たりな真似ができるか。俺たちゃコソ泥でも墓荒らしでもねぇんだぞ。ご先祖様の供養は大事にしろって、爺っちゃん婆っちゃんたちからも、散々言われてきただろうが!」
『何か申し訳ない気持ちになってきたな……』
『墓場などという罰当たりな設定にするからじゃ』
当初はここを「ダンジョン」として公開する事も視野の内だったので、洞窟がダンジョン化した理由とそこに財宝がある理由として、中高生時代にTRPGのGMとして鳴らした時の知識に照らし合わせて――これが間違いの素である――隠された古代の地下墓地という設定にしたのだが。
『このまま遺跡として認知されちゃいそうですね』
『まぁ……それは先になってから考えよう』
裏で複雑な表情を浮かべているクロウたちの事など知る由も無く、クラブは滔々と自説を開陳している。そして……その仮説はクロウたちにとっても歓迎すべき方向性を持っていた。なので配下のモンスターたちにも、勇み足で飛び出さないよう言い含めておく。
「……いいか? ここが唯の墓場の拡張跡なら、ギルドの連中があぁまで泡喰って飛び出してく訳が無ぇ。そうだろうが?」
「た、確かに……」
「やつらの足跡はこの階の入口付近で留まってる。……てぇ事ぁ……ここで発見した何かが、やつらをあぁまで慌てさせたって事になる」
上の階層には慎ましやかな墓地しか無かったのだから、消去法でそういう結論になる。
「……こりゃあアレだな。どういう経緯かは解らねぇが、あの崩れた土の下に何かど豪ぇもんが埋まってんのに違ぇ無ぇな。ギルドの連中、それに気付いたもんで、大慌てて人手を掻き集めてやがんだ」
「ど、ど豪ぇもん?」
「あぁ、例えばお宝――とかな」




