第二百九十四章 「盗掘者のカタコンベ」~新作ダンジョン@マナステラ~ 14.納骨洞の奥へ
話の筋は一応通っているように見える。となると、調査を依頼された側としてはどうするべきか。ここまでの成果で充分として引き上げてもよさそうに思えるが……
「俺としちゃあ、階段の近くだけでも、もう少し調べるべきだと思ってる」
一同思案に迷っている最中、選りにも選って日頃から安全第一を主張してやまないビーツがそんな事を言い出したものだから、「一攫千金」のメンバーは矢庭に色を作す。
「ビーツ!?」
「本気かよ……」
「あのヤバいスケルトンみてぇなのが他にもいたら――」
「落ち着け!」
〝悪辣〟ビーツの一喝に一同が静まり返ったところで、怒声の主がジロリと一同を睨め回す。
「……危険と見てこのまま引き下がるにしろ、他の連中を出し抜いてお宝を狙うにしろ、判断の材料ってもんは必要だろうが? だったら、ギルドの腕っこきが三人もいる今こそが、その調査をする好機だろうが。――違うか?」
一同互いに顔を見合わせていたが、やがて代表する形でクロップが問いかける。
「……調査って言うけどよ、何を、どこまで、調べようってんだ?」
「調べる範囲は階段の近くに限定する。何かあっても直ぐ逃げ出せるようにな。
「調べる内容については……①崩落の様子。壁は自然に風化して崩れたのか、それとも何かに壊されたのか。②副葬品の有無。剣や腕輪の出所は間違い無くここなのか、他にもめぼしいお宝がありそうなのか。③崩落の範囲。ざっとでいいから範囲が知りてぇ。要するにだ、積もった土砂の下にまだお宝が埋まっている可能性があるかどうか。④危険の有無。あのスケルトンみてぇなのが他にもいるのかどうか。こいつぁ足跡なんかも肝になるから、実際にはこいつが一番先になるな。……こんなところでどうですかね?」
すっかり場を仕切って決めた後で、取って付けたように許可を求めるビーツに、ギルド差し回しの暫定リーダーも苦笑を禁じ得ない。が――特に異論は無いようだ。
観念したようにゾロゾロと階段に向かい、用心しぃしぃ第二層の探索を始めた。
第一層とは違って小部屋に分かれているような事は無く、広場の形も不整形に入り組んでいる。ただ、その入り組んだ形状が、未だ掘削されていない事によるのか、崩落によって塞がったのかがはっきりしない。岩壁には削ったような痕が残っているが、それはすっかり固結した崩落土を取り除こうとした跡のようにも見えるのだ。
ただ……床には明瞭な痕跡が残っていた。
「ビーツ、やっぱり他にもいるみてぇだぜ、モンスター。新旧大小、色んな足跡がありやがる」
「……洞窟の入口から入って来た様子は無かったな? とすると……どっかに外に繋がる出口があるのかもしれん」
「けどよ、それを探せと言われても俺ぁ断るぜ? こうあちこち崩れてて、おまけにモンスターが隠れてるって事になると……」
「あぁ、ギルドもそこまで無理は言わんだろう」
意味ありげに視線を向けた先では、ギルドが派遣した冒険者たちも頷いている。彼らだって危険な調査は遠慮したいようだ。
とりあえず安全が確認された範囲で状況を調査した結果……
「崩落の多くは自然な風化によるものだが、人の手で荒らされたような痕跡もある。また、堆積した土砂の下からは、そこそこ値の付きそうな副葬品も見つかった。……ギルドがどういう判断を下すかは判らんが、物議を醸しそうな遺跡だな」
「これで俺たちゃお役御免かい?」
「あぁ、もうこれで報告書には充分だ。引き上げよう」
……本来この場所にあったのは鍾乳洞であり、それはつまり、この辺りが石灰岩地形であった事を意味する。つまり……それなりに堅牢な地質であって、そう頻々と崩落が起きるとも考えにくいのであるが……地質学の素養は素より、地元出身でもない一同が、そんな不整合に気付く訳が無い。
充分な成果を得たと判断した一行は、そのまま「盗掘者のカタコンベ」を退去した。
……ここが「ダンジョン」であると気付く事も無く。
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『思ったよりあっさりと退いて行ったな』
『慎重な連中でございますな』
『手薬煉引いてたモンスターたち、ガッカリしますね』
『……まぁいい。次に来る連中に期待しよう』




