第四十五章 シャルド 3.シャルド
現場編です。
オンブリーら増援の派遣に遅れる事二日、宰相の肝煎りで王都から派遣されてきた専門家は、宰相の遠縁の貴族であった。骨董好きの度が過ぎて、自分でも発掘に手を出すようになったという道楽者である。性根と気心が知れており、口の堅さもそれなりであると判断した宰相が、事と次第によっては実家の改易・断絶すらあると臭わせて脅迫……いや説得して一味に引っ張り込んだ。
到着直後は我が身の不運を嘆いていたが、現場を見てオンブリーから説明を受けるやいなや、たちどころにその重要性を理解したのはさすがであった。
「……確かに君の言うとおりだ。上の方は通常の層位配列だが、例の物品が出土した地層の下は攪乱を受けてるな。……層位の攪乱は他の地点でも?」
「今のところ確認されたのはこの地図に示してある範囲です。まだ調査していない部分もありますが、おおよそこの辺りの層位が攪乱されているようです」
「遺跡らしきものが発見されたというのは?」
「こちらです」
オンブリーは王都から派遣されて来た貴族――パトリック・ハーコート卿。どこぞの男爵家の三男坊らしい――を、新たに発見された遺跡のある区画へ案内した。
「ふむ……、確かに何らかの遺構のようだが……」
ハーコート卿は今まで見た事のない「遺跡」の有様に戸惑っているようであった。
「オンブリー君と言ったね。この……遺構は、発見した時から、このように埋もれていたのかね?」
オンブリーが案内したのは、クロウたちが造った「廃墟」の入り口――ただし本物の入り口ではなく偽の入り口の一つ――であった。そこは人頭大の石に覆われており、幾つかの石を取り除いた奥に、魔法陣で封印された扉のようなものが見えていた。
「はい。土を掘っていくとあからさまに妙な石がゴロゴロと出てきたので、自分の判断でその一部を取り除かせました。そうすると奥に遺構のようなものが見えたので、その時点で作業を中止し、現状を維持しました」
「その判断は適切だ。私もこんなものにお目にかかるのは初めてでね、正直何なのか見当もつかんが、普通の遺構でない事だけは確実だ。ここから先は慎重に作業した方がいいだろう」
ハーコート卿はこの時点で、宰相らが希望していたような秘密裡の発掘は不可能と判断した。仮に層位が攪乱されている範囲を遺跡の範囲だと仮定すると、その範囲はかなり大きなものとなる。ちょっとした軍事拠点にすら使えそうだ。作業員だけでもどれだけの数が必要になるやら。こんな代物を密かに発掘するなんてどだい無理な相談だ。発掘そのものは公表して、公表する内容の方をコントロールした方がまだましだろう。場合によっては、適当なカバーストーリーを用意する必要も出てくるかもしれない。
「……とりあえず、ここはしばらくこのままにして、両側をもう少し掘ってみてくれないか。石で埋められている範囲が知りたい」
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ハーコート卿は後年、この時の指示についてはほんの出来心だったと述懐している。まさかあんなものが見つかるなどとは思いもしなかったと。
そう、新たな扉が更に二つも見つかるとは。
もう一話は王国編になります。




