第二百九十四章 「盗掘者のカタコンベ」~新作ダンジョン@マナステラ~ 10.静謐なる墓所(その2)
長らくそこにあったと見えてすっかり埃を被ってはいるが、それは紛れも無く黄金細工の腕輪であった。そのデザインには、先日拾った「宝剣」に一脈通じるものがある。
『あれもエメンさんの作品?』
『いんや。腕輪も宝剣も俺の仕事じゃねぇ。船喰み島の遺跡……つぅか宝箱……ってのもおかしいか? まぁともかく、あそこで見つけたお宝の中から選んだやつだ』
『最初に発見されるものは、ギルドが執拗に調べるだろうからな。万が一にも贋物だと気付かれないように――な』
『人を騙すのには熱心なのよね、クロウは』
『………………』
……舞台裏の遣り取りはさて措くとして、デザインだけでも重要な情報源――情報の真偽は気にしないものとする――たり得るこの腕輪であったが、その落ちていた場所がまた重要であった。
「……この『腕輪』を落としたやつが、『宝剣』を落としたやつと同じだったとすると……」
「何かに追われて一目散に、道を戻ってた風に思えるわな」
「だったら、妙な寄り道なんざしなかった筈だぜ?」
「てぇ事は……ここと通路を結んだ直線を、真っ直ぐ延ばした先が……」
「お宝の在処って事になるだろうな」
湧き上がる期待を胸に秘めつつ、慎重に周囲の様子を窺いながら足を進めて行くと、一同の眼前に現れたのは、
「……下へ降りる階段かよ」
・・・・・・・・
階段を前にして暫し話し込んだ一同であったが、ここまで危険らしい危険には遭遇していない。それは言い換えると、宝剣――と腕輪――の落とし主を遁走せしめた未知の危険について、何も判っていないという事である。
「……なのに、階段を前にして怖め怖め引っ返したりしたら、ギルドに会わす顔が無いんでな。悪いがお前らにも付き合ってもらうぞ?」
「まぁ、んな事になんじゃねぇかと思ってたけどよ、無理攻めは勘弁だぜ?」
「あぁ解ってる。今回は下層の様子を見るのを目的とし、撤退は常に念頭に置いておく」
――と話が一応纏まって、おっかなびっくりと階段を下りていたのだが、
「……ちょっと待て。途中から岩壁の様子が変わってやしねぇか?」
目敏くその事に気付いたのは、ベテランパーティ「一攫千金」の頼れる斥候・クロップであった。
無視して進むには不安の残る指摘という事で、魔法職の二人が岩壁の性質を調べてみたところ、
「魔法で強化した跡がある? 確かか?」
「間違い無いな。念入りに強化をかけてある。施工したやつは、その事を隠す気も無かったようだ」
「うむぅ……」
岩を掘削して造った石窟なのだから、崩落を警戒するというのは勿論解る。解らないのは……
「……上の階層にゃ、そんな跡は無かったんだな?」
「意識的に調べようとしてた訳じゃないからな。絶対そうだとは言えんが……だが、ここまであからさまな強化だったら、普通に気付いてる筈だ」
「一攫千金」の魔術師・エランもこの見解を支持した事で、新たな疑問が浮かんできた。新しく現れた岩の壁は、なぜ強化の魔法がかけられているのか。




