第二百九十四章 「盗掘者のカタコンベ」~新作ダンジョン@マナステラ~ 9.静謐なる墓所(その1)
男たちの見ている前で堆積していた土砂がみるみる動くと、埋まっていた通路がその姿を現した。
「……大したもんだな。俺も少しは土魔法が使えるんだが、較べもんにならねぇな」
「ま、ギルドの依頼で似たような仕事をさせられる事も多いからな」
「年季の違いって事か」
「そういうこった」
首尾好く通路が開通したのを見届けると、リーダーらしき男が声をかける。
「よし、それじゃ奥に進むか。悪いが『一攫千金』にも付き合ってもらうぞ」
「へぇへぇ、解ってますよ」
――とまぁ斯くの如き成り行きで、冒険者パーティ「一攫千金」の五名と冒険者ギルド嘱託の三名、計八名による「盗掘者のカタコンベ」探索が幕を開けたのである。
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『どうするんですか? マスター』
『爺さまの言うとおり、いきなり立ち入り禁止になんかされても困るからな。最初のうちは予定どおり、ローリスク・ローリターンのコースでいく』
クロウたちが端然として眺めている中、モニターに映る八名は、ゆっくりと探索の歩みを進めて行く。
「……ここも大して変わらんな。どの小部屋の壁にも岩棚が刳り貫かれて、そこに屍体が収まってやがる」
「あぁ。だが、気付いているか?」
「……何に、だ?」
「第一に、棚のホトケさんは皆安らかにお寝みあそばしてる。アンデッドに化けた様子も無けりゃ、荒らされた様子も無ぇ」
「……確かにな。どっから見ても静謐な墓場そのものだ」
『マスターの技術って、相変わらず凄いですねー』
『あれって捨てられてた骨ですよね? 肉を取った後の?』
『あぁ。適当に変形させた後で、【エイジング】をかけて風化させた。専門家が組織を見れば、一発でおかしい事に気付くんだろうが……こいつらはそこまでしないようだな』
『触った途端にボロボロ崩れるまで風化させとるじゃろうが。そんなものをどうやって調べるというんじゃ』
『ん? そりゃ、やろうと思えば色々できるんじゃないか? 樹脂に浸すなり錬金術を使うなりして固めれば、構造を維持したまま固定できるだろ?』
『そこまでやろうとする人間なんかいないわよ……』
『そうか? 凝り性の鑑識係とかならやりそうだが?』
「第二に……見てみな。ホトケさんが身に着けてるなぁ、どいつもこいつも金目のものじゃねぇだろうが。丁寧に細工はしてあるみてぇだが、金銀宝石って感じのもんじゃねぇ」
「言われてみれば……確かにそうだ」
『あれって、エメンさんが作ったんだよね?』
『まぁな。あまりやった事の無ぇ細工だから自信は無ぇが、ま、パッと見にゃそれっぽく見えるだろ? ボスに【エイジング】もかけてもらってるしよ』
『こっちも触ろうといたしませんですな』
『ま、金目のもんじゃねぇってのは、見ただけで判るだろうからな。手に取るだけの興味も湧かねぇんだろうよ』
『考古学者なら躊躇わずに手に取るんですけどねぇ……』
「そうなると、気になってくんなぁ――だ」
「……お前らがここで拾ったっていう『宝剣』か? ギルドに提出した?」
「そういうこった。アレだけが何で出口の傍に落ちてたのか」
「あぁ……お前らの言う〝仮説〟ってやつは俺も拝聴した。……つまり……この辺りはまだ問題無い筈だってのか?」
「ホトケさんは風化こそしちゃいるが、荒らされた様子は無ぇ。おまけに金銀財宝とは縁の無ぇ方々みてぇだしな」
「本番はまだ先って事か……」
『よぉ~し、よしよし。いいぞ~、そのまま奥に入って来い』
『主様、あいつらちゃんと来るでしょうか?』
『面倒臭くなってぇ、止めちゃうとかぁ』
『一応……ギルドから……指示が……出ている筈です……中途半端な……ところで……勝手に……中止したりは……しないでしょう……』
『それに、やつらの気を惹くようなちょっとした仕込みもしてあるからな』
「ビーツ!」
先行して辺りの様子を探っていた斥候のクロップが、何かを見つけたような叫びを上げた。警戒しつつも小走りに近寄ったビーツたちが目にしたものは、
「腕輪か……?」




