第二百九十四章 「盗掘者のカタコンベ」~新作ダンジョン@マナステラ~ 8.企む男たち(その2)
あるかも判らぬ大金のために危険を冒すよりも、安全確実に手に入る小金――というのが、世の中の酸いも甘いも噛み分けたベテランパーティ「一攫千金」のスタンスである。ビーツの提案は満場の支持を受けた。
「さすが悪辣のビーツだぜ」
「狡賢さは天に通ずる――ってな」
「……お前ら、俺を馬鹿にしてんのか?」
「いやいや、まさか」
「お前の深謀遠慮を褒め称えてるんだぜ?」
どう聞いても〝褒め称えている〟とは思えない口調に、ビーツは複雑な表情であったが、
「……まぁいい。先を続けるぞ」
気を取り直して話を続けようとするビーツに、パーティメンバーたちは怪訝な表情を向ける。
「ん?」
「……先って何だ?」
ギルドから報奨金を頂戴して、ついでに墓荒らしのお零れにありつくか、拾った剣を売り払って資金を作り、墓荒らしの利益と危険を独り占めするか、それとも情報を売り払って高見の見物を決め込むか。どう転んでも損は無いんじゃなかったのか?
「お前ら……俺たちがマナステラに来た理由を、忘れたってんじゃねぇだろうな?」
「理由……?」
「あぁ、金鉱探しの事か?」
「いや……そりゃ忘れちゃいねぇが……それとこれとは無関係……」
「――じゃ、ねぇんだよ」
戸惑ったような仲間の発言に押し被せるように、〝悪辣ビーツ〟と呼ばれた男は話を続ける。
「いいか? 金鉱目当てにこの国へやって来た破落戸どもは、別に俺たちだけじゃねぇ。謂わば、競争相手は多いって事だ。……解るな?」
「お、おぅ」
「そりゃ解るけどよ……?」
「そんな連中の間にだ、〝金造りの副葬品が眠ってる墓場〟の噂が広まったら、どうなると思う?」
「「「「あ……」」」」
「他の連中の目がここに釘付けになるってんなら、金鉱探しの競争相手は減る理屈だろうが」
「「「「…………」」」」
流石に〝悪辣ビーツ〟の名は伊達ではない。古代の墓地を囮に使って、競争相手を追い払う策を考えたらしい。
「け、けどよビーツ。墓場が本命じゃねえって、本当にそう言えんのか?」
「多分だが、その線は無ぇ」
「……何でそう言い切れるんだ?」
「災厄の岩窟」では古代金貨も得られていた筈。その出所があそこでないと、どうして言える?
「まず第一にだ、『岩窟』にあった金貨の出所がここだとすりゃあ、今頃残ってると思うのか? ダンジョンマスターってなぁそこまで控え目なのかよ?」
「「「「あ……」」」」
仮に自分たちがそんなお宝を見つけたなら、根刮ぎ持ち去る自信がある。「岩窟」のダンジョンマスターが特別に欲の無い性格でもない限り、態々残しておく理由が無い。
「第二にだ、あの場所は墓地、それも共同墓地らしかった。つまり、色んな連中が差し障りも無く出入りしてたって事だ。そんなところに、金貨なり砂金なりを隠すか?」
「「「「…………」」」」
「第三に、例の『剣』を落としたやつの事を考えりゃ、墓場が遺跡になったずっと後も、あそこにゃ出入りできてた筈だ。『岩窟』の事を別にしても、そんな場所に置いてあったお宝が、今も残ってると思うのか?」
「「「「…………」」」」
「更にだ、テオドラムから流れて来た噂じゃあ、マーカスの連中が見つけたってなぁ砂金の筈だ。けど、砂金ってなぁどう考えても、ホトケさんの副葬品にゃ似合わんだろうが」
「……つまり?」
「この与太噺を真に受けんなぁ、とんだトンチキだって事。そして……世の中にゃ、そんなトンチキが多いだろうって話よ」
・・・・・・・・
……などという悪巧みをこの連中、仮にもダンジョンである「盗掘者のカタコンベ」の中で、ダンジョンマスター一味が聴き耳を立てている中で、得々と話していた訳である。
『何だか、変にややこしい事になってますね。マスター』
『ドロップ品のラインナップを再検討した方が良いかもしれんな……』




