第二百九十四章 「盗掘者のカタコンベ」~新作ダンジョン@マナステラ~ 7.企む男たち(その1)
「おぃおぃビーツ、正気かよ?」
「目の前にお宝があるってのに、怖め怖め尻尾を巻いて引き下がるってのか?」
ブーブーと不平を鳴らす仲間たちをジロリと睥睨して黙らせると、「一攫千金」のリーダー・ビーツは口を開いた。
「能く考えろ。この先にあるのが〝お宝〟だって、どうして判るんだ? 風化した遺体じゃねぇ新鮮なアンデッドどもが、手薬煉引いて待ち構えてるかもしれんだろうが」
〝「剣」の落とし主が這々の体で逃げ出した、その原因は判っていないんだぞ〟――と言われれば、仲間たちの頭も冷えようというもの。
何しろここは「地下墓地」なのだ。ビーツの言うように墓地がこの先にも広まっており、しかもそっちの方が後になって作られたのだとすれば、岩棚に納められている屍体も新しくなる理屈である。風化を免れた遺体がアンデッド化していないと誰に言える?
「ついでに言っとくとな、〝通路が埋まった〟理由だって判っちゃいねぇんだ。剣の持ち主が逃げ出したその時の騒ぎで、通路が埋まったって可能性だって無かぁねぇ。……言い換えると、この先にゃあ獲物に逃げられて中っ腹のアンデッドどもが、ワンサと待ち構えてるかもしれんのだぞ?」
冷水をぶっかけられたように仲間たちの熱りが鎮まったと見るや、ビーツは次なる理由を開陳する。
……そう、ビーツが撤退の判断を下したのは、何も潜在的な危険を懸念したからだけではない。そこには冷徹な……言い方を変えれば小狡い計算があった。
「俺たちがマナステラに来た理由を忘れたのか? テオドラムの上流にあるっていう〝知られざる金鉱〟ってのを探しに来たんだろうが。そして――少なくともここは探していた『金鉱』じゃねぇ。違うか?」
理詰めで遣り込められた仲間たちは、渋々とであれ頷くしか無い。しかし――そうは言っても、お宝があるかもしれない場所から見す見す手を引くというのも……
「あ? 誰が完全に手を引くと言った?」
「ち、違うのか?」
尻尾を巻いて引き下がるのかと思いきや、そうではないと聞かされて、パーティメンバーたちも居住まいを正す。
「ちったぁ頭を働かせろ。人が立ち入った形跡が無ぇって事ぁ、冒険者ギルドもここの事を把握してねぇ公算が大きいって事だ。だったら、俺たちが案内を仰せつかる可能性も大だろうが。……応援の冒険者と一緒に、な」
「「「「あ……」」」」
「確かに独り占めはできなくなるが、代わりに安全度が高まるって寸法よ」
う~むと唸る仲間たち。確かにビーツの言うように、この先にお宝があると決まった訳ではないのだ。独り占めの可能性を捨てたとしても、先行者利益まで捨てる訳ではない上に、ギルドから報奨金が出る可能性だってある。おまけに身の安全が高まるとなると、これは悪い取引ではない。
「……けどよビーツ、冒険者ギルドがここの事を知ってたら、どうなるんだ?」
あぁ、それがあったか――という顔付きの一同。確かにその場合は、報奨金にもありつけない上に、良い面の皮を曝す事になるが……?
「そん時ゃここで拾ったこの『剣』は、誰憚る事無く俺たちのもんだ。確かに刀身にゃ罅も入ってるが、黄金造りの握りはそのまま。悪くない値で売れる筈だぜ?」
「おぉ……」
「売っ払った儲けで手を引くか……それとも儲けを準備金にぶち込んで、改めてここの攻略に取り組むか……ま、そこは状況次第ってとこだな」
「け、けどよビーツ、もしもヤバそうなアンデッドがいたら……」
「そん時ゃここの情報を欲深どもに売っ払って、俺たちゃ高みの見物を決め込んでりゃいい。ものになりそうな様子だったら、後からお零れを頂戴する手もあらぁな。……露払いどもがアンデッドを片付けてくれた後から――よ」




