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第二百九十四章 「盗掘者のカタコンベ」~新作ダンジョン@マナステラ~ 5.冒険者たち(その3)

 妙に直線的な「通路」を、それでもジグザグに(くだ)って行くと、広場のような場所に出た。ただ、そこは天然に生じた空洞などではなく、



「……途中の『通路』で気付いちゃいたが……こりゃあ……」

「あぁ、『遺跡』ってやつみてぇだな」



 「遺跡」とは言っても石造りの神殿のようなものではなく、天然の洞窟を掘り拡げて造ったもののようで、きちんと整形された幾つかの小部屋に分かれている。イメージ的には「石窟(せっくつ)寺院」というのが近いだろうか。

 ただし、ここは神仏を(まつ)るための場所ではなく――



「……墓場……って訳か?」

「……みてぇだな。ま、遺体(ホトケさん)はもうほとんど(ちり)(かえ)っちゃいるが」



 どうやら岩壁を()()いて造られた岩棚に、遺体が納められていたようだ。「墓地」と言うよりは納骨堂……いや、「納骨()」と呼んだ方が適切かもしれない。

 (もっと)も、今や屍体そのものはすっかり風化して、その痕跡を留めるだけとなっているが、それでも副葬品のようなものは一部が残っている。


 ……そう、〝一部〟が。



「残ってんなぁ、ちんけなもんばっかしだ。〝お宝〟って感じじゃねぇな」

「俺たちみてぇな貧乏人だったか、或いは……」

「あぁ、めぼしいもんは()っくに荒らされちまったか、だな」



 その台詞(せりふ)が口から出ると同時に、一同の視線は拾った〝剣〟へと注がれた。……副葬品に相応(ふさわ)しげな、その〝剣〟へと。



・・・・・・・・



「……足跡の(たぐい)は残ってねぇな。まぁ、この辺りの床は()()しの岩肌だしな、足跡の付きようも無ぇだろう。ただ――」

「――ただ?」

「パッと見た限りじゃ、ホトケさんに荒らされた様子は無ぇ。それどころか手を触れた様子も――な」

「……確かかクロップ?」

「見てみなビーツ。遺骨も何も、ちょっと触っただけで崩れそうだろ? なのに崩れた跡が無ぇって事ぁ……」

「手を触れたやつがいねぇって事か、成る程」

「……けどよビーツ。金目当ての冒険者がここへ来たんなら、漁ってみるくれぇはした筈だぜ? なのにその後が残ってねぇって事ぁ……」

「……誰も(へえ)って来なかったか。或いは……」

「……或いは?」

「目当てのもんがどこにあるか判ってて、さっさと素通りしたかだな」



 様々な思いが渦巻き交叉する中、リーダーのビーツが口を開いた。〝幾つか気になる点がある〟――と。

 全員の注意が自分に向いた事を確認すると、ビーツは(おもむろ)に話を続ける。



「最初にだが……ざっと見た限りじゃ、空いてる岩棚は無ぇようだ。つまり、ここは満席だって事だな。この事実から二つの点が導き出される。一つは事実で、もう一つは疑問だ」



 ここでビーツは一旦言葉を切ると、全員の顔を見渡してから話を続ける。



「まず事実の方だが、岩棚が全て屍体、それもほとんど風化した残骸で埋まってるって事ぁ、アンデッド化したホトケさんはいねぇって事だ」

「「「「「あ……」」」」」



 ――地味だが重要な事実であった。


 墓場と言えばアンデッドが付きもの。そして、()(もと)にある「宝剣」を落とした者が何かから逃げていたとするなら、アンデッドというのは充分に考えられる答であった(・・・)

 しかし、ここの遺体にアンデッド化したものがいないとなると……



「……それ以外の何かがいた(・・)、もしくは今もいる(・・・・)って事かよ……」



 一同の警戒が一気に高まるが、それを尻目にビーツは話を続ける。……これ以上に言うべき事があるというのか?



「そこから更に二つの仮説が導かれる。一つは新たに、もう一つはさっき挙げた疑問点に繋がる」

「……面倒な話になってきやがったな……」

「ビーツの話はいっつもそうだ……」

「黙って聞け。新たな仮説の方だが――この『剣』を持って逃げたやつが、一人でここへ(へえ)ったんじゃねぇなら、当然仲間がいた筈だ。そいつらが、ここでこの『剣』を見つけたとすると……」

「あ――」

「仲間割れか!」



 ――だとすると、話は一気に単純になる。


 ここで見つけたお宝を巡って仲間割れが起こり、一人が「宝剣」を持って逃げだして、残りが後を追ったというだけだ。未知のモンスターなど想定する必要は無い。

 一同ほっと溜息を()いて、肩の力を抜いたところで。



「……悪いが、気を抜くなぁちっちばかし早い。仮説と言うか疑問がもう一つ残ってる」



 ――と、その(あん)()を引っ繰り返したのがビーツである。……どうもウォーレン卿に似たところがあるようだ。

 仲間たちの怨みがましい視線もものかは、口を開いたビーツが指摘したのは、



「……確かにここ(・・)の岩棚は満席になってる。そこでお(めえ)らに訊くんだが、墓場が満杯になったらどうする? ちなみにここを使ってた連中は、(いわや)を掘って墓にしてたんだぞ?」



 ビーツの指摘に顔を見合わせる一同。

 単純に考えれば、新たに墓地を探すか、現在の墓地を拡張するかだろう。しかしここの住人が、石窟を墓所として用いる習慣があったとなると……



「……他所(よそ)に新しく岩穴を掘るか……」

「……奥に岩穴を掘り進めるか――だな」



 一同の目は墓所の奥に向けられる。……崩れた土が積もって(ふさ)がれたように見えるその〝奥〟へ。

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