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第二百九十四章 「盗掘者のカタコンベ」~新作ダンジョン@マナステラ~ 2.ダンジョンロードの苦労

『魅了を付与した鬼火(ウィスプ)、大活躍ですね』

『あぁ。モルヴァニアの陣地で新兵どもを(たぶら)かした実績もあるからな』



 ……そう。()(はや)クロウのダンジョンではレギュラーメンバーとなっている鬼火(ウィスプ)、その活躍によるものであった。冒険者(えもの)たちはその(またた)きを目にした時点で無自覚に魅入られており、何の不審も違和感も感じぬ(まま)に、この場所へ誘導されて来たのである。



『……この連中、ひょっとして例の「金鉱熱(ゴールドラッシュ)」に浮かされた口か?』

『会話を聞いた限りでは、どうやらそのようでございますな』

『しかし……あれは砂金だぞ? 水に流されたのが堆積したんだから、水の流れのある場所を探すのが常道じゃないのか?』



 この辺りにめぼしい川が無いのを知っているクロウとしては、冒険者たちの思考に疑念を抱かざるを得ない。ただ、眷属たちには別の判断もあるようだ。



『けど(ぬし)様、あれって地下の川ですよね? 地上の流れとは別だって考えてるんじゃないですか?』

『この洞窟も……元々は……地下水に侵蝕された……鍾乳(しょうにゅう)(どう)……でしたし……』

『むぅ、そう言われればそうか』



 ギド――現在「百魔の洞窟」で代官を務めている三つ首の大蛇――に教えられた場所にあったのは、今も地下水の流れている鍾乳(しょうにゅう)(どう)であった。

 ダンジョンにするのは打って付けと思えたが、ダンジョン化とそれに伴う冒険者の流入によって洞窟の生態系が変わるのを懸念したクロウの判断で、新たなダンジョンは鍾乳(しょうにゅう)(どう)とは重ならないように構築されている。

 とは言え、立地的に地下水と無関係でないのは事実であり、眷属たちの判断もまた一理あるものであった。


 それに何より――クロウとしては他に気にすべき事があった。



『こいつらが金鉱に(たぶら)かされて来たとなると……ダンジョンのデザインも、少しそれっぽく変更した方が良いのか?』



 クロウがこのダンジョンの設計に着手した時点では、金鉱熱(ゴールドラッシュ)は無論、金鉱の噂など影も形も無かった。当然、クロウはこのダンジョンに冒険者(えもの)を誘致するに当たって別のインセンティブを考える必要があった。

 そこでクロウが目を付けたのが、古代の墓地とその副葬品であった。イタリアはローマの地下墓所(カタコンベ)に想を得て設計されたこのダンジョンは、古代エジプトの「王家の谷」のイメージも取り入れたデザインになっており、埋没した墓所の幾つかが盗掘にあったような体裁をとっている。

 副葬品の所在を暗示すると同時に、墓荒らしに対する忌避感を薄めようというクロウの企みであった。


 しかし――今新たに「金鉱」という餌が現れたとすると、このダンジョンもそれっぽくデザインを変更した方が良いのではないか?


 (しば)し悩んでいた一同であったが、ここでキーンから反対の意見が上がる。



『だってマスター、ここでそれを使っちゃったら、勿体無くないですか?』



 墓所は墓所、金鉱は金鉱として、別個に扱う方が手札が増えるではないかとの意見には、ダンジョンロードのクロウとしても(うなず)かざるを得ない。それに何より、今から(きゅう)(きょ)デザインを変更するとなると大仕事だ。ブラック勤務を何より嫌うクロウとしては、そんな展開は願い下げである。



(もっと)もな話だな、キーン。使えそうなネタを浪費する事は無い。ここは当初の予定どおりとして、金鉱のネタはどこか――もう少し立地的にもそれらしい場所を()(つくろ)って使うとしよう……そのうち、な』



 ワーカホリックの沼に堕ちつつある事を自覚しているクロウは、次のダンジョン作成はまだ先だと、眷属たちに釘を刺したつもりでいた。が――(わな)や伏兵というのは気付かないところにあるもので……



『するってぇとボス、この後は金鉱を探しやすんで?』

『……何でそういう話になる?』



 不穏な事を言いだしたエメンにゆっくり向き直ると、クロウはその真意を問い(ただ)した。



『いやだって、万一この後に本物の金鉱が見つかったりしたら、冒険者どもはそっちに行っちまうんじゃねぇですか?』

『……それはちょっと業腹(ごうはら)だな』



 折角苦労して作ったダンジョンに(かん)()(どり)が鳴く展開など、ダンジョンロードのクロウとしては容認できるものではない。()(ぐす)()引いて待ち構えているモンスターだって不本意だろう。


 ――そうならないためには、世間に先んじてクロウがその〝金鉱〟を押さえるしか無い。


 ブラック勤務を何より嫌うクロウの(もと)に、新たな任務(ミッション)が舞い降りて来た瞬間であった。



・・・・・・・・



『お主も大概難儀じゃのう』

『……少し黙っててくれ、爺さま』

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