第二百九十四章 「盗掘者のカタコンベ」~新作ダンジョン@マナステラ~ 1.墓場への招待状
ようやくのマナステラ新作ダンジョン篇です。本章もそこそこ長丁場になります。
『何だかんだでズルズルと遅れていたが……今度こそ新ダンジョンを公開する!』
眷属たちの前で言葉も力強く宣言したのは、ラノベ作家にしてダンジョンロードという稀有な肩書きを持つ男、烏丸良志ことクロウである。新規ダンジョンお披露目の計画を立てるたびに、何だかんだと想定外の事態に巻き込まれて、ズルズルと公開が引き延ばされてきたのだ。モンスターたちも痺れを切らせているし、そろそろ表舞台に出すべきだろう。
『でもマスター、あの場所って、人が来ませんよね?』
『どうやって……誘き寄せる……おつもりですか……?』
僻地過ぎて冒険者からも見捨てられたような場所に、如何にして冒険者を誘致するのか? 当然の如く湧いた質問に、クロウは胸を張って――最近の実績に鑑みると、微妙に不安になる態度である――答える。
『そこはちゃんと考えてある。モルヴァニアに試した手を使うつもりだ』
『モルヴァニアに……?』
『あぁ。洞窟の手前の林までは、冒険者たちも時折やって来るみたいだしな』
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「ありゃ何だ? 洞窟か?」
そろそろ夕闇が迫って来ようかという時刻、マナステラに新規開店したクロウ渾身の新ダンジョン、開発名称「盗掘者のカタコンベ」の前にやって来たのは、明らかに冒険者と判る男たちの一団であった。
「妙な灯りが瞬いてたんで来てみりゃあ……」
「どうするよ? ビーツ」
ビーツと呼ばれた男は暫く考えていたが、やがて思案が纏まった様子で口を開く。
「少しだけ入ってみよう。どうせもう直ぐ日が暮れるんだ。夜営に恰好の場所が見つかったと思やぁ、見過ごす手は無ぇだろう。ま、それもちっとばかし様子を探って、安全かどうかを確かめてからだがな」
内部の状況次第では、冒険者ギルドに報告する必要がある。――例えば出来たてのダンジョンであるとか。
それを判断するためにも、どうせ内部の確認は必要なのだ。夜営の候補地に選んで何が悪い。それに……
「ひょっとして、俺たちが探してる金鉱の跡……って可能性だってあるんだしよ」
どうやらこの連中は、例の「金鉱熱」に浮かされて、マナステラを訪れた口らしい。金鉱――の跡地――があるのなら山の方、そしてそれが未知というならあまり人がやって来ない場所にあるに違いないと踏んで、態々こんな僻地まで、足を伸ばしたもののようだ。
当然、そんな金鉱・廃坑の候補地とも見える「洞窟」を目にした、一同の判断など解りきっている訳で、
「……だな」
「あぁ、ここで引っ返す手は無ぇよな」
――と、他の面々にも異論は無いようだ。
「妙な灯りを見た時にゃ何かと思ったが……どうやら神様のお導きってやつみたいだったな」
……違う。
彼らが〝導かれて〟この場所へやって来たのは事実だが、導いた相手は神などではない。或る意味でその対極に座すダンジョンマスターの上位職、「ダンジョンロード」のクロウであった。そして、彼らをこのような状況に導いたクロウの絡繰りとは……




