第四十五章 シャルド 1.シャルド
シャルドの地に眠っていた「廃墟」が目覚めます。
モローに魔族が現れたという知らせは、その出現がシャルドに対する陽動の可能性があるという見解と共に、魔道通信機によってシャルド調査隊に送られた。調査隊の指揮を執るのは、またも貧乏くじを引かされたダールとクルシャンクの二名である。何かめぼしいものが見つかり次第、オンブリーが飛竜でやって来る手筈になっている。
「……そうは言うけどな、その『めぼしいもの』ってなぁ、一体どこをどう探せば見つかるってんだよ」
「ぼやくな。とにかく古代都市の範囲がどこまで広がっているのかを確かめるのが第一だ。そしてそのためには、正確な測量に基づいて基点となる杭を格子状に打ち込み、各々の升目内で試掘を行なう。学院のお偉いさんがそう言ってただろう」
「だがよ、そりゃ考古学の調査ってやつの場合だろう? 俺たちゃ別に学問のためにやってるわけじゃねぇ。同じ場所を掘り返すのだけ注意すりゃぁ、端から順番に、こう、がーっとほじくり返してもよかったんじゃねぇか?」
「……なぜ、それを、測量前に提案しなかった?」
「今朝思いついたんだから仕方ねぇだろうが。憂さ晴らしに言ってみただけだ」
「……お前というやつは……」
「報告します! 遺跡の出土品と思われるものを発見いたしました!」
ダールとクルシャンクの二名はピタリと諍いを止めると、報告を持って来た兵士の方へ向き直った。
「場所は?」
「どこだ?」
「はっ! D-2グリッドの位置であります!」
クルシャンクが文句を言っていたグリッド方式であったが、いざ出土品が発見されたとなると、実にスムーズにその位置が特定できただけでなく、前回調査の時の測量図と併せる事により、前回確認された遺跡との位置関係も把握できた。しかし、そんな事を蒸し返すほど、クルシャンクもお人好しではない。自分の失言は華麗にスルーして兵士に質問する――ダールが何か言いたげなのは気のせいだ。
「出土品ってなぁ、何だ?」
「はっ! 金貨のようであります!」
「何ぃっ!?」
「金貨だとっ!?」
発見された金貨は掘り出される事もなく、見つかった時の状態のままに置かれ、周囲を兵士が警戒していた。
「……なぁ、これって、報告書にあった遺跡よりも浅いんじゃねぇか?」
「あぁ、明らかに浅い層から出土している。俺は専門家じゃないから判らんが、数百年、事によると千年ほどの違いが出るかもしれん」
「……古代都市とは別の時代の遺跡って事か?」
「だが、こうして見た限り古代都市で見つかったのと同じ金貨に見える。……いや、実物を見た事がある訳じゃない。報告書の挿絵と似ているというだけだが、それでも似ている事は確かだ」
「するってぇと……」
「喜べ、クルシャンク。お待ちかねの『めぼしいもの』ってやつらしいぞ」
王国軍のシャルド調査隊は、第一大隊に所属する歩兵と工兵、それに少数の通信兵と医務兵からなっています。なので、発掘や測量の作業自体に関しては、まるっきりの素人集団というわけでもありません。




