第二百九十三章 災厄ゴールドラッシュ 14.ホラを吹く者、踊る者~シャノアからの報告~(その1)
――ここからは少し先の話になる。
『金鉱の噂……? マーカスの国内でか?』
戸惑ったようなクロウの問いに、問いかけられたシャノアはコクリと頷いた。
『ほら、ちょっと前からマーカスの国内を探してたじゃない。その時に精霊の一人が聞き込んだんだって』
『あー……そっちでか』
これだけでは何の事やら解らないであろう読者のために、この場面に至るまでの筋道をサクッと説明しておこう。
話の発端となったのは、〝金鉱〟とは全く無関係の事実――マーカス国内の状況を知る手立てが不足しているという事実であった。
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既にお忘れの向きもおいでかも知れないが……近隣各国に多大な影響を及ぼすクロウの本拠はエッジ村。イラストリア王国辺境にある一寒村――の外れの洞窟――である。そこで慎ましやかにスローライフを送る予定であったのだが……何の因果か、その拠点を脅かさんと図る悪党――正確には拠点近くに住まうエルフを狙っていた領主――と事を構える羽目になり、ついでにその背後にいたヤルタ教にも、済し崩しのままに大打撃を与えてしまう。
手違いでダンジョンマスター(?)にジョブチェンジしていた事が切っ掛けとなって、そのまま流れるように複数のダンジョンを支配下に置く事になり、ついでにヤルタ教との因縁も、更には隣国テオドラムとの対立も深まる事になった。
その辺りの運命については、当事者たるクロウがもはや諦めの境地に達しているので、これ以上ここで穿り返す事はしないが……要は「クロウ」としての個人的な活動域と、「クロウ陣営」の作戦域に、大きな齟齬が生じてきたのが問題なのである。
何しろ現在のクロウたちの主敵はテオドラム。その国内には幾つかの拠点を設ける事に成功しているが……
〝問題……なのは……周辺の……諸国……でしょう〟
〝まさかテオドラムとその周辺国が、ここまで拗れた関係になるとは思っておりませんでしたからな〟
〝拗れたと言うか、こんがらがったと言うか……〟
〝関係各位が勝手に混乱してるよね〟
公平に見てこの混乱と錯綜は、クロウたちが意図したものではない。ないのだが……しかしクロウたちが無関係かと言われると、素直には頷けないものがある。そして何よりもかによりも、クロウたちがテオドラムとの(敵対)関係を断たない以上は、この〝ややこしい〟状況の中で動く事を避けられない。
つまり、この〝ややこしい〟状況を迅速かつ正確に把握する必要があり、そのための情報を入手する必要がある。
しかるに――である。
〝さすがにテオドラムの周辺国にまでは、諜報の手を伸ばしていませんでしたから〟
〝ねー。必要があるなんて、思わないよねー〟
〝孰れ必要が生じるとしても、それはまだ先の事だと思っておりましたな〟
幸か不幸か、「ダンジョンマスター」改め「ダンジョンロード」に出世したクロウの傘下では、既に十指に余る公然・非公然ダンジョンが活動しており、これに加えて精霊たちの移動用に開設した精霊門が幾つかある。なので、拠点の数はそれなりに揃っているのであるが……




