第二百九十三章 災厄ゴールドラッシュ 13.マナステラの波紋~テオドラム王城~(その2)
「……少なくとも、マナステラはシャルドの金製品について、何らかの情報を握っている。それは確かだ」
確信ありげに断定したメルカ内務卿であったが……違う。マナステラは公表された情報以上のものは握っていない。
「だが、イラストリアが公表した内容では、シャルドで発掘された金製品に、ノンヒュームの痕跡は残っていなかったというぞ?」
「だとすると……マナステラが探し求めている『ドワーフの金盃』も、重要なのは〝ドワーフ〟の部分ではないのかもしれん」
「うん?」
「どういう事だ?」
「重要なのは〝金盃〟の部分。より大胆に断定を下すなら、素材としての『金』が問題なのかもしれん」
「素材としての金……?」
ファビク財務卿は当惑顔の同僚たちを見回すと、
「諸君らは憶えておらんかね? 我が国に災厄をもたらした贋金貨、あの地金が贋金の決め手となった事を」
「あ……」
「『金』の成分か!?」
「正しくは夾雑物の成分になるだろうが……ともかく、それを手懸かりとして、素材としての金を区別する事ができるという事だ」
「「「「「う~む…………」」」」」
考古試料を対象とする場合は、時代による精錬技術の変化なども考慮する必要があるので、そこまで話は単純ではないのだが……まぁ大筋においては間違っていない。
「問題なのは『金盃』の地金か……」
「と言うより寧ろ『シャルドの出土品』の地金、更に言えば、それと『金盃』の地金との類似点、もしくは相違点だろう」
「マナステラが金盃を追い求めているという事は……」
「件の金盃は、問題となる地金の類似点、もしくは相違点を示すための証左となる……のか?」
――かなり大胆な推論ではあるが、少なくとも話の筋道としては成立し得る……ここまでなら、まだ何とか。
「想像を逞しくするならば……」
――逞しくするんじゃない。
「逞しくするならば……?」
「……シャルドの金製品は、嘗てマナステラにあった金鉱の金でできている。その『金鉱』は今は涸れ果てているが、そこの金で造られた製品の一部は現存している。……マナステラが探し求めている『金盃』が、それである……という可能性も……」
「何と……」
「確かに整合性はあるか……」
――整合性というよりは、辻褄を無理矢理に合わせただけのような気もするが。
「そこで問題は、この件に関するマナステラの意図になる」
「マナステラの意図?」
「うむ。件の事実を証明する証拠として金盃を欲しているのか。それとも逆に、その事実を秘匿せんがために金盃を抹消しようとしているのか」
「う、うぅむ……」
「成る程、これは……」
下手に関わると、碌でもない迸りを被りそうな気がする――犇々と。
「……とは言えだ、例の砂金の可能性がある以上、手を拱いて見ている訳にはいかんぞ?」
「うむ。何より『金』という共通要素が関わってくるのだ。無視は愚策だろう」
「総論には賛成するが……しかし、具体的に何ができる?」
「それとなく目を配り、聴き耳を立てておく……今のところはそれくらいしかできまい」
拙作「ぼくたちのマヨヒガ」、本日21時に更新の予定です。宜しければこちらもご笑覧下さい。




