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第二百九十三章 災厄ゴールドラッシュ 9.テオドラム~王都ヴィンシュタット・テオドラム王城~(その1)

 人員の交代に伴って王都ヴィンシュタットに帰還した、「災厄の岩窟」派遣部隊。その一人が考古学の泰斗と盛り上がって組み立てた怪説はテオドラム王国国務会議の耳に届き……



「全く……()りに()ってややこしい時期にややこしい話を持ち込みおって……」

「当人に悪気は全く無かったようだが……」

「悪気は無くとも悪い結果をもたらしたのなら、(とが)められて然るべきだろうが! ……すまん、益体(やくたい)も無い愚痴を言った」

「いや、心情的には大いに同意する。……法理的にも政治的にも認められんがな」

「ともかくもだ、我々としてはこの問題にどう対処すべきか、それを考えるべきだろう」



 ……彼らを悩ませる事になっていた。


 ――何が起きたのかと言えば単純である。


 アインベッカー教授との茶飲み話を大いに盛り上げた(くだん)の怪説。アレをその場限りのものとしておくのは勿体(もったい)()いとでも思ったのか、(くだん)の男は王都ヴィンシュタットで再会した旧友に、一応は〝根も葉も無い与太(よた)(ばなし)〟だと断った上で、(くだん)の怪説を()(ろう)に及んだのである……場所もあろうに酒場の中で。

 話を聞いたその友人は、その時にはただ面白いネタ話ぐらいに思って一緒に盛り上がったのだが……翌朝、冷静になって思い返してみると、このまま放置しておくのは(まず)いような気がしてきた。


 出勤後、上司に恐る恐るお伺いを立てたところが、上司も何となくヤバそうな気配を感じ取る。それから順繰りに話が上に伝えられ、数日を経た後に国務会議の耳に届いた……という次第なのであった。



「……即座に箝口令(かんこうれい)()きはしたが、既に日数が経ってしまっている。完全に封殺するのは難しいだろう」

「まぁな。ネタとしても面白い上に、事が(きん)に関わるというのだ。欲に目の(くら)んだ()(もの)どもなら、目の色変えて飛び付くだろう」

「また悪い事に、仮説を支持する証拠は無いが、その一方で反証となり得るものも無いからな。(よく)()け相手の説得力は充分だろう……忌々しい事に」



 もしもこの状況を放置しておくと、一攫(いっかく)千金(せんきん)の幻に(とり)()かれた亡者どもが、当該地域の地面を穴だらけにしかねない。「災厄の岩窟」の入口付近こそ、テオドラムとマーカス両国の兵士が詰めているが、



「あの『岩窟』がだだっ広いというのは広く知られているからな。国境付近を外れた位置から穴を掘って、金の鉱脈を掘り当てよう……などと、愚にも付かん妄想を抱く(やから)が出ないとも限らん」



 テオドラムとマーカスの国境を越えて広がるダンジョンが地下にあるというのに、そこに勝手に穴など掘られては、国防に(たずさ)わる者として(たま)ったものではない。これにはマーカスだって同意するだろう。



「マーカスか……」

「幸か不幸か(くだん)の仮説では、砂金が堆積しているのは我が国よりも上流側……()(てい)に言えばマーカスの領土内だと想定されている。そこを強調してやれば、(よく)()けどもをマーカスに押し付ける事も可能ではないか?」



 実際には金鉱調査隊第三班の兵士が、荷車一杯の金鉱石を運ぶゴーレムを目撃している。その事実を踏まえてテオドラム上層部は、『災厄の岩窟』もしくはその近郊に、(しか)るべき埋蔵量の金鉱脈があると判断しているのだが……この情報は機密に指定され、駐留部隊と(いえど)(した)()には報されていない筈。(よく)()けどもやマーカスにしても、この情報を知る事は難しいだろう。現にアインベッカー教授はこの情報を知らなかったために、「漂砂鉱床」という発想に至った訳だ。

 レンバッハ軍務卿の提案は、そういう事情を踏まえてのものであったようだが、これは言った傍からトルランド外務卿に(いっ)(しゅう)される。



「馬鹿な。このややこしい時期に、敢えてマーカスを()(げき)するような真似をして、どうするつりだ」

「……と言うかだな、この『噂』の()(どころ)が我が国だと知られるだけで、充分過ぎる程に(まず)いだろう」

「それはそうだが……噂話を完全に統制するのは難しいぞ?」

「うむ……事実上不可能だろう」

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