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第二百九十二章 幻のダンジョン、ダンジョンの幻 12.アムルファン

 ――読者は憶えておいでであろうか? イスラファンとテオドラムの接近(?)に危機感を抱いたアムルファンが、イスラファンにはテオドラムが欲するダンジョンが無い事を証明せんがために、イスラファンに対して国境沿いの共同調査を申し入れようとしていた事を。

 その後、思いがけないあれやこれやの展開があったために遅れていたが、愈々(いよいよ)その計画を実行に移そうかと図っているアムルファンであったのだが……



「今更という感が無きにしも(あら)ずなんだが……イスラファンとの国境には、本当に何も無い(・・・・)んだろうな?」

「本当に今更だな」

「ここまで来たらいい加減、(はら)(くく)るしか無いだろう」

「頭では解っているんだが……」



 この()に及んでこんな会話が()わされるようになったのも、元を辿(たど)れば全てはサウランドの「幻のダンジョン」が原因であった。正確にはその調査結果が。


 一年半も経ってから蒸し返された〝グレゴーラムの一個中隊壊滅〟。その件が引き金となって、突如として()いて出た〝サウランドの「幻のダンジョン」仮説〟。

 国際関係――と言うより謀略――の火種になりそうなこの厄介案件の真偽を明らかにすべく、選抜された冒険者の部隊が――おっかなびっくり――(くだん)の国境林に踏み込んで調査した結果がこれまた(ぶつ)()ものであった。


 〝ダンジョンの痕跡無し。危険なモンスターの痕跡無し。ただし、正体不明の怪光が飛び廻るのを目撃〟――という、危険が有るのか無いのか判じかねるような、扱いに困る報告が上がって来たのである。


 仮にも正規の報告書なのであるから、軽々しく無視する訳にもいかない。()りとて、この報告書をそのまま受け容れれば、〝ダンジョン以外の何か〟が存在する可能性を棄却できず、安全宣言を出すには至らない。


 結局、当局渾身(こんしん)のダンジョン調査は、不安な日常に回帰するのを見送るだけという、後味の悪い結果に終わったのであった。



 ――話を戻してアムルファンである。


 元々はイスラファン国内にダンジョンという資源が無い(・・)事を示すべく、安全(・・)確認を盾に国境付近の調査を持ちかけたアムルファンであったが……ここへ来て〝ダンジョン以外の危険物〟という厄介な可能性に振り回される羽目になっていた。


 ここで改めて〝アムルファンとイスラファンの国境付近〟の状態を述べておくと……曲がりなりにも「国境」であるから、それを示す石塀のようなものはある。ただし、いい加減古いため所々で破損しており、そこを抜けて越境する者も少なくない。まぁ、面倒なので両国とも黙殺しているが。

 とは言え、基本的には石塀があって先へ進めないのと、要らざる面倒に近付く事が敬遠されたため、国境付近は人の立ち寄らない場所となっている。

 結果として植生の(せん)()が進み、所々で樹林化が進んだ(やぶ)のような状態になっている……野生動物の棲息地としては打って付けの。


 要するに……先程から話題に上っているサウランド付近の国境林、あそこと似たような景観になっているのである。



「街道筋にそれらしきモンスターが現れた事は無いんだが……」

「それはサウランドもグレゴーラムも同じだろう。慎ましく森へ立ち入る程度なら、何の災厄も起きなかった」

「しかし、グレゴーラムの馬鹿どもが大規模な盗伐を企てて森へ入った()(たん)……」

「あぁ、一個中隊がほぼ(みなごろし)という大惨事になった」

「ダンジョンなど無い筈のあの場所で――な」



 (そもそも)グレゴーラムの兵士たちは、ダンジョン内で鏖殺(おうさつ)された訳ではない。ダンジョンなど何も無い筈の場所で、未知の何物かに謎の攻撃を受けて壊滅したのだ。それを考えると、〝ダンジョンが無いから危険は無い〟――と短絡する事はできない。

 しかもこの懸念を裏付けるように、サウランド近くの国境の森では、入念な調査にも(かか)わらず、ダンジョンは発見されなかった。ただ……精霊なのか鬼火(ウィスプ)なのか、夜間に何かが飛び交っているのが目撃されたという。



「今まで(ろく)に調べてこなかった場所を調べる……というのは、何とも嫌な予感がするな」

「実際に調査を担当する者は、もっと切実だろうな。冒険者ギルドに問い合わせてみたが、当初の条件で受ける者がいるかどうかは怪しいそうだ」

「それに――だ、(そもそも)イスラファンがこの話を受けるのか?」

「そこだな、問題は」

「それだけではない。こんな時にこんな話を持ちかけるなど、何か裏があると認めるようなものではないか。余計な警戒心を(あお)るだけだ」



 という事で、折角アムルファンが温めていた計画は、始まる前に水泡に帰したのだが、



「そう悲観したものでもないだろう」



 ……などと言い出す者が現れたから、一同の視線はそっちを向く事になる。



(そもそも)の話――だ。我々がこの話を持ちかけようとしたのは、イスラファンにダンジョンが無い事を(おもて)沙汰(ざた)にせんがためだった。そしてその真意は、〝ダンジョンという資源がイスラファンに無い〟事をテオドラムに知らしめ、(もっ)て両国の接近を阻もうというところにあった」



 ここで発言者は一旦言葉を切った。発言の内容が一同の頭に()み込んだかどうかを確かめるかのように見回すと、



「不幸にしてその計画は修正を迫られたが……その一方で、予定していた調査領域に踏み込むのは、我が国もイスラファンも共に難しくなった。……いいかね?

「あの領域に何かが有ろうと無かろうと、近付けない以上は利用できん筈だ。ゆえに、資源とは成り得ない。……或る意味で目的は達成されたのだと思えんかね?」

第五部が長くなり、標題と内容に若干の乖離が生じてきているため、第二百七十四章からを新たに第六部としました。話の内容に変化はありません。

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