挿 話 somewhere
挿話です。
洞窟のような場所であった。そこがどこなのかは判らない。どこに在るのかも判らない。
一人の男が佇んでいた。二体の大きな獣の前に。従順な二体の魔獣の前に。
「ふぅん、お前たち、どちらも中に入る事ができなかったのか……」
申し訳なさそうに座っている二体の魔獣は、念話で何か報告したようだった。
「狭いダンジョンねぇ……。従魔術師や召喚術師にとっては天敵みたいなダンジョンなんだろうね」
従魔術師にせよ召喚術師にせよ、強力な魔獣を使役して戦う職種である。そして、強力な魔獣というものは概して身体も大きいものだ。あのダンジョンは狭いというだけで、それら強力な使役獣や召喚獣の動きを封じている。何者かは判らないが、相当な知恵者がいるんだろう。
「……しかし、その知恵者はどうやって一挙に二つのダンジョンを手に入れる事ができたんだ? ……それとも、ありそうにない事だが、同じような事を考える二人のダンジョンマスターがいたというのか?」
どれもこれも、通常なら考えられない事であった。あれほど近接した場所に二つのダンジョンが時を同じくして出現する事も、一人のダンジョンマスターが一挙に二つのダンジョンを支配する事も、同じ時期に同じ場所で二人のダンジョンマスターが各々別のダンジョンを手に入れ、それらを同じコンセプトの下に育成する事も、いずれもあり得ない筈であった。
「考えやすいのは、二人のダンジョンマスターが各々一つのダンジョンを手にした場合だな。ダンジョンマスター二名が共同しているか、あるいは同一の上位者の指示を受けて動いていると考えれば、あり得る話だ」
男の独白は続く。
「でも、そう考えると、近接した場所に二つのダンジョンが同時に出現した事も偶然じゃない事になる。何者かが計画的にダンジョンを造ったんだ」
男は更に考えを巡らす。
「そう考えれば、狭いダンジョンという不自然さも納得できる。基本、ダンジョンは必要とする魔素をダンジョンの外から収穫するしかない――獲物を誘い込むにせよ、自ら外に狩りに行くにせよ。けど、狭いダンジョンでは大形の動物を誘い込む事は難しいし、大形のモンスターを召喚できないから楽な狩りもできない。要するに、狭いダンジョンが――オルトロスやキマイラが言うような――強い魔力を持つ事は、自然にはまず起こり得ない。そんなダンジョンがあるとすれば、魔素を人為的に供給してダンジョンを育てた場合くらいだ」
ダンジョンの生態を知っていれば、モローのダンジョンがどれだけ不自然かなどすぐに判る。判らないのは……
「でも……何の目的でそんな事を? 何の利益があるんだ?」
イラストリア王国第一大隊のウォーレン卿が陥ったと同じ悩みに、この男も陥っていた。
「弟はモローのダンジョンの傍で王国の兵士に殺された。なぜ、王国の兵士があんな場所にいた?」
答えは一つしか考えられない。あの二つのダンジョンが原因だ。
「王国は何を知っているんだ? 何を考えているんだ?」
現状あのダンジョンに侵入するのが困難な事を考えると、あの二つのダンジョンを調べるためには、王国の動きを探った方が早いかも知れない。
男はぼんやりとそんな事を考えていた。
もう一話投稿します。




