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第二百九十二章 幻のダンジョン、ダンジョンの幻 1.クロウ(その1)

 話の発端は何かと言えば、(もっ)()リーロットで足止めを喰らっている「緑の標」修道会からの報告であったろう。


 五月祭の準備が(ようや)く一段落付いた事で、久しぶりに解放された修道会のメンバーが、本来の任務であった筈の諜報活動に(いそ)しむべく、出稼ぎ労働者たちの噂に耳を傾けた。そしてそこで耳にした内容というのが、テオドラム北街道の整備に関する一連の噂話であった。

 さすがに聞き捨てにできる内容ではなかった上に、耳にした話がどれもこれも非常に錯綜(さくそう)していたため、修道会側は――不審を抱かれる危険性が皆無でないとして――それ以上の訊き込みを断念。現状のみをクロウに報告した。

 一報を受けたクロウは、修道会の判断を()とした上で、訊き込みに()けたニールら冒険者組をリーロットに派遣。更なる情報収集を行なわせた。


 その結果得られた情報というのが……



『また……(えら)錯綜(さくそう)しているな。整合性の欠片(かけら)も無いというか』

『へぇ。面目(めんぼく)ありやせん』

『別にお前たちのせいじゃないだろう。何でこんな事になってるんだか……』



 要するに、確定した事実というものが少ないくせに、そこから導かれる結論は無視できない重要性を持っていたため、大勢が面白半分に手前勝手な推測を吹いた。その推測を元に更に憶測を重ねた結果、〝百家(ひゃっか)争鳴(そうめい)〟を地でいく勢いで虚言・妄言・暴言・流言・至言が乱立したらしい。

 それらを何とか整理した結果、



『確定できる「事実」としてはこんなもんか』



・テオドラムが北街道の整備計画(マルクト~ニル間)を公表した。


(いず)れニルからグレゴーラムへの街道も整備されるのではないかと言われている。


・グレゴーラムでは中隊規模の兵士がモンスターに襲われたとの噂がある。


・グレゴーラムの兵力は近頃増強された。


・テオドラムはニル~グレゴーラム間の整備計画について、否定も肯定もしていない。


・また、テオドラムは王都ヴィンシュタットからニルへ至る、所謂(いわゆる)「中央街道」についても整備を計画しているらしく、冒険者ギルドに街道の下調査が依頼された。


・サウランド近くの国境林に、未知のダンジョンがあるという噂がある。


・北街道に関する「噂」について、ニルの冒険者ギルドやイスラファンの商人、イラストリアの兵士などが訊き込みを行なっている。



『これらの「事実」を遺漏無く、そして矛盾無く説明できる仮説を巡って、(しょ)()(ひゃっ)()がそれぞれに持論を(ふい)(ちょう)している訳か』

『そりゃ、訊き込み調査を行なった連中も、さぞや困惑しとるじゃろうな』



 ――精霊樹の爺さまの言うとおりであった。

 その〝困惑〟をどうにかせんものと、更なる訊き込みに邁進(まいしん)した事で、訊き込み行為自体が関心を引く事になり、更なる諸説紛糾をもたらすという笑えぬスパイラルが出来ていたのだが。



『……テオドラムは何を考えている?』



 これら一連の混乱は全て、テオドラムの動きに呼応したものだ。それに、北街道に絡んで何かアクションを起こすとしたら、それはテオドラム以外にあり得ない。

 故に――テオドラムの(もく)論見(ろみ)を見抜く事こそが、混迷した事態の打開に繋がる。



『まぁ……その点については……クロウ様の言われる……〝(しょ)()(ひゃっ)()〟の連中も……気付いてはいる……ようですが』

『その解釈がこれまた多岐(たき)(わた)る……と言うか、()(ぶん)()(れつ)しているせいで、混乱に拍車が掛かっている訳だが』

『こーゆーのって、〝負のスパイラル〟って、言うんでしたっけ』

『ややこしい話ね……』

滑稽(こっけい)な話じゃとも言えるぞ。(はた)から眺めておれば――じゃが』

『……とにかくこのままでは(らち)が明かん。テオドラムが今後採るだろう方策について考えてみよう』



 テオドラムが北街道、手始めにマルクト~ニル間の整備を打ちだした事は事実であり、既に着工済みだという。



『テオドラムが北街道の整備に乗り出したのは事実。中央街道についても整備を視野に入れているとすると、ニルからグレゴーラムへ至る北街道の東区間についても、整備を予定している筈だ』

『整合的な推察かと』

『確かに。そうでなくては筋が通りません』



 ――確かに間違ってはいない。が、正しくもない。


 テオドラムが北街道の東区間や中央街道の整備を視野に入れているのは事実であるが、それは飽くまで将来的なオプションの一つとしてである。少なくとも、北街道西区間の整備と同じタイムスケールで論じるようなものではない。と言うか、テオドラムの国庫にそんな金は無い。

 街道の整備計画を全て同じタイムスケールで捉えるという誤りに、クロウもまた陥ろうとしていた。そして悪い事に、この誤解を強く押し進める要因が存在した。

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