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第四十四章 招かれざる客たち 3.王都イラストリア 国王執務室

本章最終話です。

 その日、執務室に集まった四名の間には緊張が――軍人二人には当惑も――漂っていた。国王はローバー将軍の方を向くと、確認するかのように声を発した。



「モローに魔人が現れたそうじゃな」

「はぁ……まぁ……一応」

「む? 妙に歯切れが悪いの?」

「いえ……屍体を(あらた)めたんで魔族だってぇのは確かなんですが、報告を聞いた限りじゃ随分な下っ端……って言うかチンピラとしか思えねぇんで」

「ウチの兵隊五名にいきなり突っ掛かって来た挙げ句、一矢報いる事もできずに返り討ちに()ったようです」

「……随分と……その……残念な魔族であったようだな」

「お蔭さんで、相手の目論見が何なのかって、ウォーレンが頭を痛めとります」



 将軍の声が呼び水となったのか、国王と宰相が揃ってウォーレン卿の方を向く。



「ウォーレン卿、説明をしてもらえんかな?」

「それが……将軍の言葉通り、あの魔族が何のためにやって来たのか、どうにも判断がつきかねている状態でして……」

「一番ありそうなのは、魔族に馬鹿がいたって事なんじゃねぇかって、ウォーレンと話してたところでしてね」

「……つまり、これがⅩの仕業だとすると、何らかの手違いで事情も知らぬ間抜けが派遣されてしまったと?」

「陽動の可能性を考えたのですが、陽動ならそれなりの者を派遣するだろうと思えるのですよ。Ⅹの手配なら突撃馬鹿を送るような事はない筈です」

「ふむ……。つまり、手違いで無能が派遣されただけで、Ⅹの本来の狙いは陽動であった、卿はその可能性を考えるのじゃな?」

「あくまでも、これにⅩが関係している場合ですが。偶々(たまたま)通りがかった残念魔族という筋も充分にあり得ます」



 チンピラ、馬鹿、間抜け、突撃馬鹿、無能、残念、と言いたい放題であるが、彼らに悪気は()(じん)もない。()政者(せいしゃ)あるいは軍人として心底そう思っているだけである。まぁ、闇雲に兵士に突っ掛かって行ったのを見れば、無理もない評価だと言えよう。



「案外、何も知らずに通りがかった愚物というのが正しいのかもしれません」



 ほぼ正解である。



「しかし、我々としてはもう一つの可能性、すなわち陽動という可能性を捨てるわけにいかない以上、相応の対処をする必要がある。その意味では、派遣するのが役立たずでも別に問題なかったわけです。Ⅹがそれを見越していた可能性も捨て切れません」

「あの抜け目の()ぇⅩなら、それくれぇの(こた)ぁ考えるか」

「して、ウォーレン卿、陽動の話じゃが?」

「はい。これが正しく陽動であった場合、何に対する陽動なのか、という事になります」

「最近我々がとった行動に対しての反応、そう言いてぇわけか?」

「はい。このところ我々が関心を寄せているものに対する陽動であるとすれば、考えられるのは二つ」

「モローと……シャルド遺跡か」

「その(いず)れかがⅩの本命でしょう。Ⅹとしては、派遣する者は優等でも劣等でも構わないわけです。いくら疑っていても、結局我々は陽動に備えざるを得ませんから、戦力の分散が期待できます」

「双方への注意を厳にした上で、調査を進めるしか無いわけか……」

「シャルドへ行っている連中の尻っぺたを叩いておきます」

「……一つ思いついた事が」



 ウォーレン卿の発言に、またかよ、という表情を隠せない一同。



「……聞きたく()ぇが、一応聞くぞ、ウォーレン。……何が言いたい?」

「いえ、モローの双子のダンジョンの手際が余りよかったので、今まで考えつかなかったのですが……」

「双子のダンジョン?」

「ええ、現地ではそう呼ばれているそうです」

「口を挟んで済まなかったな。続けてくれ」

「はい、今回派遣された者があまりにアレ(・・)だったので、なぜこのような者が、と考えて思い至った可能性です。Ⅹにとって双子のダンジョンはさしたる価値はないのではないか、と」

「……どういう事だ?」

「双子のダンジョンがⅩにとっての実験であったとしたら、そして既に実験が終わり、双子のダンジョンの価値も無くなっているとしたら」



 クロウが聞いたら激怒のあまりウォーレン卿を(くび)り殺しそうな発言であったが、ローバー将軍以下三名は興味を、あるいは危機感を(いだ)いたようである。



「実験だと?」

「何に対する実験なのかは判りませんが、恐らくは新たなタイプのダンジョンの有効性についての検証かと。実験と考えれば、同じ時期の同じ場所に二つのダンジョンが造られた理由も想像がつきます」

「……単に実験を行なう上で、あるいは準備の上で、都合がいいから、か」



 三名はしばし考え込んだが、やがて将軍が顔を上げて尋ねる。



「ウォーレン、その場合、Ⅹにとってモローの価値は低いと考えられる、言い換えれば、Ⅹにとって重要なのはシャルドの方だと考えられるわけだな?」

「あくまでも想像ですが、シャルドの調査に注力する理由にはなるでしょう」



 紆余(うよ)(きょく)(せつ)はあったが、事態はクロウの思惑通りに動きだそうとしていた。

明日は挿話になります。

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