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第二百九十章 義賊参上!~ポストリュード~ 4.ヤルタ教 ボッカ一世(その2)

 既に掠奪の報告を受けた時点で、教主は「シェイカー」の討伐を下令していた。


 だからといって、即時右から左に討伐隊を編成するような真似は出来ない。充分な準備を整える必要があった。

 その「準備」の一環として、「シェイカー」についての情報を集め、それらを精査・吟味したのであったが……内容の錯綜っぷりに頭を抱える羽目になった。それこそ報告者の所属ごとに、「シェイカー」の戦力評定がまちまちだったのである。



(……とは言え、最悪を想定して最前を願うというのが準備の(じょう)(ほう)。それに従うなら……)



 「シェイカー」の戦力は少なくとも二個小隊、場合によっては中隊規模に相当するとの評定がある。「攻城三倍の原則」に(かんが)みるならば、その拠点を攻めるに必要となる戦力は最大で三個中隊相当。一介の教団がそんな兵力を動員できるものか。

 しかもその「シェイカー」は、既にヴォルダバンの冒険者や護衛たちから成る討伐隊を、こっ酷く退けた実績があるのだ。

 当初こそ、ヴォルダバンとは反対に少人数の精鋭部隊を送り込むという案も検討されたのだが……ヴォルダバンの討伐隊が侵入前に分断され、結果的に少人数での侵入という形態を取らされたと知って、少人数での奇襲など考えるだけ無駄であると結論付けざるを得なかった。

 要するに、



(これは……こちらから拠点に攻め入るのは愚の(こっ)(ちょう)じゃな)



 僅かな勝ちの目があるとすれば、「シェイカー」が隊商(キャラバン)を襲撃に現れたところを、三倍以上の兵力で包囲殲滅を図るケースであろう。無論、(おとり)となる隊商(キャラバン)自体も一般人などではなく、こちらの手勢を()てる訳だ。



(要は教団(こちら)が一矢報いてやって、その成果を大々的に喧伝してやればよいのだ。(しょ)(せん)は僻地の山にしがみ付いた盗人(ぬすっと)()(ぜい)。幾ら(わめ)いたところで、大勢(たいせい)(くつがえ)す事などできん)



 教主が狙っているのは宣伝戦。クロウならプロパガンダとか情報操作とか呼ぶであろう手法であった。針小の戦果を棒大に(ふい)(ちょう)してやろうというのである。

 別に「シェイカー」の全てを殲滅(せんめつ)しようというのではないのだ。暗部も含めたヤルタ教の実働部隊、その精鋭を選りすぐって差し向ければ、部分的な勝利をもぎ取る事は可能な筈。後はその〝勝利〟を声高に宣伝してやればいい。


 問題は、その〝勝利〟を〝華々しく〟教え広めてやるところにある。

 もっとはっきりぶっちゃけるなら、必要なのは〝勝利〟に添える〝華〟なのだ。


 〝退屈な真実よりもスペクタクルな虚構(ドラマ)〟を信条としてきた教主としては、重視すべきは「大衆受け」であり「話題性」であり「ブランドイメージ」であった。凶相の面々が大勢で、哀れな山賊を取り囲んでタコ殴りにしている図――など(もっ)ての(ほか)である。


 となると、ここは何としてもヤルタ教の「勇者」にお出ましを願いたいところ。なのに生憎(あいにく)にも忌々(いまいま)しくも、ヤルタ教の勇者の座は、(もっ)()空席となっている……



(適当な者を勇者に任命して、賊徒討伐に差し向けるか。……いや?」



 ここで教主は(しば)し思案に沈む。

 〝「勇者」をシェイカー討伐に差し向ける〟のか、それとも〝シェイカー討伐の功を(もっ)て「勇者」に任命する〟のが良いのか。



(我がヤルタ教の精鋭たちが山賊()(ぜい)(おく)れを取るとは思えぬが……何事にも〝万が一〟という事がある)



 「ヤルタ教の勇者」を名告(なの)って山賊のアジトに突入し、良いところ無く敗退する……非常に外聞(がいぶん)(よろ)しくない。


 対して、〝シェイカー討伐に成功した後に(・・)、その者を勇者に認定する〟のなら、仮に討伐が失敗したところで、「ヤルタ教の勇者」の名に傷は付かない。「勇者」以外の精鋭部隊には、事の()(すう)がはっきりするまで、ヤルタ教との関係を伏せさせておけばいいだけだ。



(ふむ……何にせよ、手頃な人材を今から()(つくろ)っておく必要があるな)


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