第四十四章 招かれざる客たち 2.ダンジョンモンスター?
訪問者第二陣です。
モローの迷宮の近くでダンジョンマスターらしい魔族が国軍に討ち取られた。この事実は王国の目をモローに引きつける充分な理由になる。モローに注意が向くのは俺たちには好ましくないが、この一件を「王国の目をモローに向けるための陽動」と誤解してくれれば、シャルドに造った要塞の廃墟が意味を持つ。
どっちみち、今の段階で俺たちが下手に動くのは下策だろう。静観を決め込んでいた時、新たな「訪問者」の来訪が告げられた。
『モンスターがモローの迷宮に向かっている?』
ロムルスとレムスからの連絡は、妙な方向に事態が動いた事を示唆していた。
『詳細を』
『こちらにやって来たのはオルトロスとキマイラが一頭ずつです。現在は二手に分かれ、各々が別々の迷宮に向かっているようです』
『何が目的だ?』
『彼らの会話を盗聴させたところでは、先日死んだ男の兄にあたるダンジョンマスターが差し向けたようです』
『逆恨みか?』
『弟を斃したのが国軍兵士だとは知っているようです。どちらかと言うと、私たちの迷宮への興味の方が大きいようですね』
『ダンジョンマスターの在不在、敵対行動の有無、その辺を探りに来たか……』
・・・・・・・・
『クロウ様、オルトロスが「還らずの迷宮」の入口に到着しました。映像を送ります』
今回は洞窟内で皆と一緒に映像を見る。前回のダンジョンマスター来訪の映像を生で見れなかったと言って残念がってたからな。今回は皆わくわくしながら見守っている。
ロムルスから送られてきた映像には、「還らずの迷宮」の入口を前に佇む双頭の巨大な魔犬の姿が映っていた。そう、巨大な……。
『……あの図体じゃどう頑張っても入れないよな……』
『……何か呆然としてますね』
『……結局、あの男の同類って事なんでしょうか……』
『あ、壁を引っ掻いてます』
オルトロスは恐る恐るという感じでダンジョンの壁を引っ掻いていたが、疵一つ付かない事を確かめると、溜息をついて退いた。
『こいつは魔法の無駄撃ちはしないようだな』
『とは言え、代替案は思いつかないようですな』
『大方、上司の無茶振りを断り切れずにやって来たってところだろう』
『立ち上がって……帰る……ようですね』
『決断が早いな。無理を承知の上でやって来たか?』
『あ……尻尾垂れてる……』
『哀愁を纏っているな……気の毒に』
オルトロスがとぼとぼと引き返したところで、今度はレムスからの通信が入った。
・・・・・・・・
『こっちはキマイラか』
『うわぁ……嫌そうな感じで入口を見てますねぇ』
『無理をすれば砂の壁を削って入り込めるだろうが……そんな事をすれば、崩れ落ちる砂に埋まるのは間違い無いからな』
『入口付近をうろうろしておりますが……決心がつかないようですな』
『決心なのか諦めなのかは判らないけどね~』
『あ、意を決して頭を突っ込んだ……あ? あ~っ』
『……砂の塊が崩れ落ちてきたな……』
『頭を振ってますよ……あ、砂を吐き出した……』
『嫌そうですね~』
『無理……無いと……思う』
『ますたぁ、オルトロスぅ』
『あ、本当だ。オルトロスが合流しましたね』
『二頭が目を見合わせて……あ、同時に溜息をついた……』
『……揃って戻るようですね』
『何やら目が虚ろですな』
『尻尾も垂れてるし……』
『大方、上司にどう報告するか、頭を痛めてるんだろう』
『何か、暗~い感じで去って行きましたね』
『うん。「どよ~ん」とか「どよどよ」って擬態語が見えそうな感じだった』
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『結局、兄のダンジョンマスターとやらは何がしたいんだろうな? 再訪の可能性はあるのか?』
『どうでしょうか……微妙ですね』
『何となくですが、無いような気がしますけど……』
『クロウ様、恐らくですが、私たちの正体を計りかねているのではないかと』
正体?
『はい。自分たちでいうのも何ですが、出現したてのダンジョンにしては魔力量が多いですから。それに、互いに近接した位置に同時に二つ出現というのも前例がありませんし』
『王国と同じような事を、ダンジョンマスター側も考えたか……』
はぁ、面倒臭い事にならなきゃいいが……。
もう一話投稿します。




