表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1614/1815

第二百八十八章 五月祭(四日目) 6.リーロット(その4)

「……ザイフェル老、幾ら何でもそれは言い過ぎではないのか?」

「何が言い過ぎなものか」



 ここでザイフェルはジロリと辺りを睥睨(へいげい)すると、



(わし)らは商人だ。それもテオドラムのではなくイスラファンの――な。そんな(わし)らが気にするべきは、他国(テオドラム)の国策などではなく、それが自分の商売にどう影響するか、それだけだろう。――違うか?」

「そう言われれば反論のしようも無いが……(ろう)は何をお考えなのだ?」



 ()気無(げな)く「老」という部分にアクセントを置き、〝()()れが世迷(よま)い言を抜かしてんじゃねぇ〟というニュアンスを込めるラージンであったが、そんな腹芸に動じるようなザイフェルではない。逆に〝世間知らずの青二才は黙っとれ〟という含みをその視線に(にじ)ませて、



「北街道であれ中央街道であれ、単にそれが整備されただけでは、(わし)らの利に繋がる訳ではない……それが使えぬのであれば――な」

「街道の利用制限……それがあるとお考えか?」

「いや、幾らテオドラムが独裁国家であると言っても、他国の人間が利用している街道を封鎖するとは考えにくい。特にマルクトからニルへ至る街道は、そこからリーロットへ繋がっている事を考えると、テオドラムの国益にも大いに寄与している筈。通行の制限などあり得まい」

「すると……?」

「問題となるのはニルからグレゴーラムへ至る、北街道の東半分だろう。グレゴーラムで何らかの凶事があったとの噂があり、今回の増派でテオドラム自身がそれを裏書きした事になる。……街道を脅かす可能性のある、何かの脅威が存在するのは間違いあるまい」



 〝問題は〟――と続けた後に、ザイフェルはグルリと一同を()め廻す。



「……テオドラムがその〝脅威〟の排除に動くかどうか。言い換えると、街道の安全を保障するかどうかという事になる」



 ここまで言われれば、他の商人たちにも話のオチは読めてくる。



「……大兵力の通行には問題無いとして、それ以上の安全保障には動かない――と?」

「我々が利用するのは禁じないが、その安全は担保しないという事か」

「あり得ぬ話ではあるまい?」



 ――確かにあり得ぬ話ではない。そして同時に、軽く見逃せる話でもない。

 グレゴーラムは純然たる城塞都市ではあるが、そこに駐留する人数は莫大。(ひっ)(きょう)、消費する物品の量も莫大なものとなり、商人的には色々と旨味のあるところなのだ。そこへの道が安全なのかどうか、それは自分たちが利益を出せるかどうかにも関わってくる。



「こうなると、グレゴーラムで起きたというスタンピード騒ぎの真偽が重要になるな」

「……? スタンピードが起きたのは確かじゃないのか? 実際にテオドラムがグレゴーラムの強化に走った訳だし」

「いや。テオドラムの動きは〝グレゴーラム界隈(かいわい)に存在する脅威〟に対してのものであり、その〝脅威〟が何なのかまでは確かめられていない。大規模な盗賊団という可能性だってあるしな」



 たかが盗賊相手に、(いやしく)も一国の正規兵が(おく)れを取るのか――という正論には、説得力のある反証が存在した。……「シェイカー」である。

 位置的に考えて、グレゴーラムでの「変事」にシェイカーが関与している可能性は低いだろうが、だからと言って他の盗賊団までが無関係(シロ)だとは言い切れない。

 それに……



「『サウランド・ダンジョン』の仮説か……」

「ただの与太(よた)(ばなし)かと思っていたが……」

「考え直す必要がありそうだな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ