第二百八十八章 五月祭(四日目) 4.リーロット(その2)【表あり】
――テオドラムが本格的な北街道の整備に乗り出すらしい。
この情報は瞬く間に関係各国を駆け巡り、対処を巡って各所で会合や議論が入り乱れたのは、読者諸賢もご存知のとおりである。沿岸国イスラファンの商業ギルドもその例外ではなく、テオドラムの意図が那辺にあるのかを巡って、議論が紛糾したのであった。
その時はそれなりに一応の方針が決まったのだが……事によるとその大前提を揺るがしかねない情報が、つい先日にもたらされたのである。
曰く――〝テオドラムとイラストリアの国境沿いの森、その東部に未知のダンジョンがあり、テオドラムの国軍を脅かしている〟
もしもこの噂話が真実なら、テオドラムがぶち上げた北街道の開発計画はどうなるのか。
抑、開発計画は本当に実行されるのか。
仮に実行されるとして、その範囲はどこからどこまでなのか。
下手をするとイスラファン商業ギルドとしての去就にすら影響しかねないとあって、何としてもその真偽を明らかにする必要に迫られる。そして、これに関する情報を得ようというなら、テオドラムの国民が出稼ぎにやって来ているリーロットが最適であり、更には各地各国からの訪問客で溢れ返る五月祭こそが狙い目であろう……
――というような次第でイスラファンの商人たちは、新年祭に引き続いてリーロットを訪れる事になっているのであった。
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「まず最初に言うておくが、テオドラムが北街道を整備するというのは確からしい。少なくともマルクトからニルに至る区間では、テオドラムは実施に動く構えを見せておるそうじゃ……旧知の者の言に拠るとな」
会議の口火を切ったのはザイフェルであった。年の功というやつで築き上げた情報網から、テオドラムの動きについて訊き込んできたらしい。
だが、その台詞に引っかかりを覚えたものもいたようだ。
「待ってくれザイフェル老、〝マルクトからニルに至る〟と言うのは……」
ラージンが何かを問い質そうとしたが、その言葉に押し被せるように、
「まぁ待て。報告する事はもう一つある。……テオドラムは北街道だけでなく、中央街道の整備にも色気を見せておるようじゃ。まぁ、こちらはそこまではっきりとした動きではないようじゃが、ニルの冒険者ギルドにそういう依頼が出たという」
「冒険者ギルドに?」
「あぁ、冒険者ギルドにだ――軍ではなく」
「……ザイフェル老、先程の質問だが……北街道の整備は、ニルまでなのか?」
「今のところはな」
ザイフェルとラージンは納得したように言葉を交わしているが、会話の内容に戸惑っている者も多い。そんな者たちのためにラージンが、これまでに判っている情報から推測できる事を説明。それに触発されたのか、他の者たちも手持ちの情報を披露し始める。それらを纏めたものが次に掲げる表になる。
「こうして見ると結果は明らかだな……」
「うむ。モンスターの襲撃の無いマルクト~ニル間は整備が確定。焦臭い噂のあった中央街道とグレゴーラム付近では見送りか」




