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第二百八十六章 五月祭(二日目) 5.バンクス~ボルトン工房出張販売所~(その2)

 モンクにジャンス・ボリスを交えた三人による講評はなおも続く。



(「そっちもだが……こっちもそれなりに大した構図だぜ」)

(「斜め上からの()(かん)かぁ……確かに、第一大隊(ぼくら)としてはこっちの方が気になるね」)

(「高みから偵察する技能を持ってるって事ですからな、この絵描きは」)

(「あの……それなんですけど……この作者って……」)

(「あぁ。十中八九、シャルドの封印遺跡を描いたのと同一人物だろうな」)

(「あの彼かぁ……」)

(「あ……そう言えば、お二方は面識があるんでしたっけ?」)

(「あぁ、まぁ、面識ってぇか……」)

(「遺跡の内部を案内しただけなんだけどね。……いや、構図に対する(こだわ)りが凄かったよ。アレが本職というものかと思ったね」)

(「……松明(たいまつ)の位置が悪いだの、近過ぎて明るくなり過ぎだの、(あか)りが大き過ぎるのって……そりゃあもう、注文が(うるさ)くってな。……まぁ、それだけのもんは描き上げてくれたんだけどよ」)



 ――以前にイラストリアが、シャルドの封印遺跡の内部を版画として公開する事に踏み切った際、何の因果かその原画を任されたのがクロウであった。ボリスたちの小隊は、その際にクロウを案内する役目に就いていたのである。



(「……この版画の事って、上層部(うえ)は知ってるでしょうか?」)

(「さぁなぁ……売り出しホヤホヤって話だからなぁ」)

(「……中隊本部に一報入れておいた方がいいかな?」)

(「まぁ、(とが)めるような筋合いのもんじゃねぇとは思いますが……俺たちの立場上、知らんぷりって訳にもいかんでしょう」)

(「上層部(うえ)の方も、(クロウ)難癖(なんくせ)を付けるような事はしないと思うんだけどね……」)



 ――と、第一大隊の三人組が今後の対応に悩んでいた時、少し離れた一角では、モルファン勢が原画家(クロウ)の素性を巡って(みつ)()()らしていた。



(「この作者って、シャルド封印遺跡の版画を描いたのと同じ人よね?」)

(「画家のサインがありませんから確言はできませんが、まずは間違い無いかと」)

(「工房から訊き出す事はできない?」)

(「……店番が他の者であれば、訊き出せる目もありましたが……あの少年では……」)



 (にこ)やかな笑みを浮かべて接客しているのは、蔭でボルトン工房の裏番と呼ばれているミケル少年。ボルトンの弟子にして(工房経営の)監督役という、複雑な立場にいる少年である。

 その交渉術は歴戦の商人を相手取って遜色の無いもので、他ならぬカールシン卿も昨年は()(はい)()めさせられている。モルファン本国からイラストリア王国を通して請求でもしない限り、情報の開示を求めるのは不可能に近いだろう。しかも当のイラストリア王国自体が、原画家の正体開示に前向きだとは思われない。



(「……ごり押しするのは悪手ね。ここは一般の観光客として(・・・・・・・・・)温和(おとな)しく購入するに留めましょう」)

(「あの……コレを欲しがる者は供の者にも多いと思いますし……一般の観光客(・・・・・・)が買う範囲に収まるかどうかは疑問ですが」)

(「……とりあえずわたしたちの分だけ買っておいて、必要なら後日、工房に注文を出しましょうか」)

(「それが(よろ)しいかと」)



・・・・・・・・



 ――ちなみにこれらの版画一式は、事前にボルトン工房の方から、パートリッジ卿とルパの(もと)に届けられていた。(もっ)()パートリッジ邸に(とう)(りゅう)しているロイル卿も、それを目にする機会はあった訳である。

 ()してロイル卿にしてみれば、愛娘の肖像画を描いてくれたクロウの作品である。興味を惹かれない筈が無い。


 なのでリスベットは、昨日のうちに父親ともどもボルトン工房を訪れて、クロウの顧客である事を明かした後に、数セットを購入済みなのであった。


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