第四十三章 アクセサリー騒動 ~第二幕~ 3.暴走する販路
本章の最終話です。
俺の甘い見通しは、ホルンからの連絡によってあっさりと破られた。
『丸玉が足りない?』
『申し訳ありません。精霊使い様のお話を聞いた女どもが張り切ったというか、安定供給の件を聞いてすっかり気が大きくなったというか……』
『交易に精を出しすぎた、と』
『これまでは丸玉の数が制限されていたため、交易自体も絞らざるを得なかったのですが……』
『安定供給の話を聞いて、一切の遠慮が吹っ飛んだ、と』
『重ね重ね、まことに申し訳ありません!』
ホルンの声の背景音に息を呑むような音が混じっているのは、本当にエルフたちが後ろに控えているんだろうな……。一応俺の返答を気にはしているわけか。
『……自重せずに売りさばいた先は、エルフと獣人だけか?』
『人間相手に売ったか、という事ですか?』
『俺の都合というだけじゃない。売買を通じてエルフと人間の接点をつくっておくのも、良好な関係を維持する意味では悪くないだろう? 別にエルフたちも、人間全てを敵視しているわけじゃあるまい?』
『精霊使い様はそこまで先をお考えでしたか……。なのに、ウチの女どもときたら……』
『あぁ、待て、ホルン。苦言は後回しにして、どうなんだ?』
『少々お待ち下さい……』
ホルンは背後(?)のエルフたちに何か聞いているのだろうか。内容までは聞き取れないが、ぼそぼそと話している声がする。
『お待たせしました。今のところ、積極的に人間に売る事はしていないようです。ただ、商人から言ってきたら、話に乗ってもいいとは言っています。あぁ、それから、精霊使い様がエルギンでご覧になったエルフですが、ウチの村から丸玉を入手した他の村のエルフだったようです』
『わかった。当面はそれくらいのスタンスでいいだろう。で、丸玉の追加だが?』
『はい……(いや、それはいくら何でも……お前たち、少しは遠慮というものをだな……あ?……何ならお前らでお願いしてみるか? ああん? ざけんなよ?……甘えるのも大概にしろってんだよ?……おう、それなら)……失礼しました、とりあえず五十個ほどを、精霊使い様のご都合のよろしい時にお譲り戴ければ』
……何か聞こえたような気がするが、気のせいだろう。ホルンも何も言わないしな。しかし、百個ぐらいは作っておいた方がよさそうだな……。何となくそんな気がする。何となくだがな。
・・・・・・・・
結局、追加で丸玉百個ほどと、銀貨五枚を潰して作った細工用の銀線をホルンに渡した。なお、銀線の方には見本として、俺が作ったワイヤーアクセサリー(丸玉付き)を付けておいた。見本を作った段階でふと思いついて、整形せずに研磨しただけの原石の周囲を簡単な模様を彫り込んだ金で囲って作った帯留め――のようなもの――も渡してみた。
参考までにと軽い気持ちだったんだが……結果的には火に油を注いだ事になったらしい。未加工の原石の欠片二十個が新たに発注された。
シルヴァの森に端を発して、エルフたちの間に未曾有のアクセサリー熱が広がるのは、このすぐ後の事である。
『のう、クロウよ。お主、自業自得という言葉を知っておるか?』
『…………』
次話から新展開になります。




