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第四章 クレヴァス

第四章とは言ってもこの話だけです。区切りを考えて独立させました。本話で「従魔のためのダンジョン」が一つ造られます。なお、クレヴァスは今後も度々話の舞台として登場します。

 洞窟や山小屋の周辺の植物などはあらかた調べ終わった頃、珍しくキーンが遠出をしようと提案してきた。まぁ、この辺りじゃもうめぼしい物は見つからないようだし、遠出も悪くはないんだが、どこか当てがあるのか?


『僕、ここへ来る前に、いたところがあるんです』


 ここから少し東に進んだところに、人気のない荒れ地があるという。草木も少なく水場も無いため大形の動物が棲みつかず、そのせいでスキンクなどの小動物が天敵から逃れて生きていけたそうだ。ただ、水気が少々不安な場所だったため、今どうなっているか気がかりだという。


『ここほど大きくないけど岩穴があって、そこでみんなと暮らしてたんです』


 みんな? それに岩穴とは?


 キーンの言う岩穴とは岩の壁に生じた割れ目、いわゆるクレヴァスというものに近いようだ。キーンはそのクレヴァスで、他のスキンクたちと暮らしていたらしい。聞けばスキンクたちの行動範囲は結構広いようだ。生まれ在所の収容力に限界がある場合、新たな住処を探して旅に出るのが普通だとか。特に雄ではこの傾向が強く、その場所生え抜きの雄は少数派で、ほとんどは他所からやって来て居着いた者らしい。キーンもあれで結構長い旅をしてきたようだ。妙に娑婆(しゃば)の事に詳しいのはそのせいか。

 スキンクたちは――特に雄だが――住処を探して旅に出る習性のせいか、好奇心の強い者が多いという。キーンを見てると頷けるな。


 他の子たちにも異存はないようで、クレヴァス方面への遠征が決まった。残念ながらハイファは今回お留守番だ。爺さまとともに俺たちの洞窟を守ってもらおう。

『残念ですが……留守番は……お任せ下さい』


 エッジ村に顔を出して、すこしばかり遠出する旨を伝えておく。ついでに村の外の様子も聞き込んでおく。キーンの話と同じように、この山を出ると水の補給が結構厳しくなるらしい。水は多めに持っていくよう注意された。



・・・・・・・・



 エッジ村を出てから東北東に三日ほど歩き続けて、ようやくキーンのいう岩山に着いた。いや、キーン、お前「少し先」とか言ってなかったか? 水も食糧も持ってきた分は使い果たし、何度か狩りをする羽目になったよ。


 キーンが言っていたクレヴァスに到着。ちょっとした岩山の岩壁にある。入口の幅は人が入るにはちょっと厳しいが、内部はそれなりに広がっていそうだ。キーンを中へ派遣して、様子を見てこさせる。


『マスター、僕の仲間たち、残ってましたけど、数が減ってました』

 がっかりしたような声音に少しだけ淋しさ哀しさを滲ませて、キーンが報告する。やはり水涸れが厳しくて、出て行ったり(たお)れたりしたようだ。実際かなり乾燥した場所で、ここを拠点化するには水場の確保が必要だろう。植物が少ない様子から、餌も豊かじゃないようだ。餌条件が悪いために、天敵も少ないというのだけが取り柄なんだろう。


『マスター、あのっ……みんなを眷属に加えてもらえませんか?』

 思い詰めたような声色でキーンが頼んできた。


 どうしたものか。眷属化もダンジョン化もできなくはないが、この荒れ地はそれほど魅力的に感じない。水場もなければクレヴァスも狭い、薬草なんかもありそうにない、こんな場所を拠点化しても得るものが無いしな……。

 と思っていたら、キーンに続いて小さなスキンクたちが出てきた。カサカサと干涸(ひか)らびたような弱々しいスキンク、体表がひび割れて息も絶え絶えのスレイター、小さくなって消滅寸前のスライム、そんな姿が最初に見たうちの子たちの姿と重なる……。

 はい、決定! 見捨てるなんてできません! ここは小さく弱い者たちが生き延びるためのダンジョンです。それ以上に重要な価値なんかありません!


『構わないが、ここをダンジョン化した場合、お前たちに独占させるつもりはないぞ。か弱い者たちが助けを求めてやってきた場合、手を差し伸べてやれるか? その覚悟があるなら眷属に加え、この場をダンジョン化してやろう』

 一応確認だけはしておかないとな。


『キーンの兄貴から聞きました。お許し戴ければ配下にお加え下さい。他の者たちを迎える件も、もちろん異存はございません』

 代表する形でスキンクの一頭が答えた。答えを聞き終わらないうちに水と食料を用意する。


『よし、ともかく水を飲め。ライ、済まんが中に入って、弱って出てこられない者がいたら水魔法で水を与えてくれ』


 水の他、消化に良さそうな果物や生肉などを与えてやって、どうにか安心できるレベルまで回復させる。もちろん、安心と実績の地球産だ。早くレベルアップしてくれよ。


 人心地――人じゃないけどな――がついた様子が見えてから、おもむろにこの岩場をダンジョン化する。しっかりした造りになるよう心がけたので、それ相応に魔力を消費した。ダンジョン魔法で入口を広げて中に入る。中はやや広くなっているが、俺が利用するにはちと狭い。拠点としても使いたいので、奥の方を拡張して、地下水が湧き出るような泉も掘った。水量が多くならないよう注意したが、そこそこ湧出量があるのでクレヴァス外の生きものにも福音だろう。植物の生育にも貢献してくれるといいんだが。

 クレヴァスの入口は元通りに狭めておく。クレヴァスの周囲も含めてダンジョン化したので、ダンジョン内を自由に移動できる俺にとっては、出入りするのに支障はない。


 今後もここには継続的に地球の食物を持ち込む予定だ。まだ名前を与えるほどのレベルではないが、いずれは強く育ってくれるだろう。


明日から新しい章に入りますが、本編開始に先立って一話分を設定として公開します。いよいよ「コアのためのダンジョン」の登場です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 気になる事が合って他の感想みたところ、地球の主人公は引きこもりみたいですが仕事はしてないのでしょうか? 道具の調達や眷属の食費等で結構費用がかかりそうですが。
[気になる点] 済まんが 普通にひらがなでいいのでは?
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