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第二百八十六章 五月祭(二日目) 1.バンクス~ジャンス分隊長の受難~(その1)

 イラストリア王国第一大隊第五中隊歩兵第二小隊で最先任分隊長を務めるジャンスは、我が身を襲った不運に対して、内心で呪いの言葉を吐いていた。(こと)にその「不運」が、自分ではなく自分の上司の「特異体質」によってもたらされたものである事に対して。



・・・・・・・・



 (そもそも)の切っ掛け――当時は幸運だと思ったが、今にして思えば不運の幕開きだったと解る――は、回り持ちの休暇が按排(あんばい)良く五月祭の日程と重なった事であった。

 色々と面倒な小隊長殿と一緒の日程となったのは不安要素であったが……まぁ、立て続けのアクシデントに見舞われはするものの、それが決して深刻な状況に結び付かないというのが、この小隊長殿の特異体質だ。確かに面倒なのは面倒だが、そこまで不安視する必要も無いだろう。

 そんなノリで繰り出したバンクスで、ジャンスは(むかし)馴染(なじ)みと出会う事になった。兵士のくせして画才持ちという、モンクという名の男である。ジャンスたちとは所属する隊が違うが、同じ第一大隊の兵卒という事で、以前に行動を共にした事がある。バンクスには何度か来た事があるが、ノンヒュームの出店には来た事が無いというモンクのために、ジャンスとボリスは案内役を買って出たのだが……



「おや、これは珍しいところで」

「カールシン卿のお知り合いかしら?」

「はい、この国に来る時に案内役と護衛を務めてくれた、第一大隊第五中隊のボリス小隊長と、その副官のジャンス君です。……今一人は生憎(あいにく)と存じませんが」

「そう。カールシン卿がお世話になったわね」

「はぁ……」

「いえ……あ、彼はモンク兵卒です。所属する隊は違いますが、同じ大隊の仲間です」」

「よ、(よろ)しく……あ、いえ……お初に(ぎょ)()を得ます。自分はモンクというケチな野郎で……じゃなくて……えぇと……」

「そう緊張しなくてもいいわよ? わたしは一介の留学生に過ぎないのだし」



 ……そう。彼らは()りにも()って、ノンヒュームの出店を目当てに会場を訪れていた、アナスタシア王女の一行と邂逅(かいこう)する羽目になったのである。


 ――これはそこまでおかしな話ではない。


 王女一行もボリスたち三名も、目指(めざ)していたのは同じノンヒュームの出店である。目的地が同じなのだから、後はタイミングが合いさえすれば、彼らが出会うのは偶然と言うより必然であった。


 庶民派三名――厳密に言えば、ボリス小隊長だけは貴族の末席に連なる――の内心の困惑と(じゅ)()は別として、王女たちの方としては、彼ら三名を逃すつもりなど露ほども無かった。その理由について説明するために、少し時間軸を遡ってみよう。



・・・・・・・・



「……混んでるわね」

「……混んでますね」

「……物凄い混みようですね」

「あそこへ突入する訳ですか? ご命令とあらば(いな)やはありませんが」



 生まれて初めてノンヒュームの出店を目にした、アナスタシア王女・ミランダ・ゾラ・リッカ、それぞれの感想であった。


 確かに、屈強の男共でも尻込みしそうな混雑振りであったが、それは見物人によるもので、購買客自体はお行儀良く列に並んでいる。それに気付いて少しは気が楽になったようだが、それでもあの行列に並ぶのかと言われると、手弱女(たおやめ)として少しばかり逡巡したくなるのも事実である。

 悪い事に……いや、見ようによっては良い事なのだろうが、それでも或る意味で厄介な事に、長蛇の行列を成しているのは一カ所ではない。言い換えると、そこまで魅力ある商品が一つではないという事で、これは味わう側にすれば朗報である。……それを購入する苦労を別にすれば。


 ここで取り分け問題となるのが、買い出しに派遣する人員であった。


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