第二百八十二章 歓迎パーティの夜 19.マナステラ王城(その2)
件の出土品とやらが、人族とノンヒューム、何れの手に成るものなのか判らないという事か?
「いや待て、歓迎パーティに派遣した者は、その実物を目にしているのだろう? その者は何と言っているのだ?」
「あぁ……確かに、そっちを確認する方が先だったな」
「どうなのだ?」
一同の視線が会議の主催者に集まるが、
「手に取ってじっくりと確かめる事はできなんだようだが、出土品を見た感じでは――」
「「「「「――感じでは?」」」」」
「デザインにノンヒュームの色は見えなんだそうだ」
その回答を耳にして、一同が〝はーっ〟と溜息を吐いた。
「確かなのだろうな?」
「あぁ。派遣した者も、ノンヒュームの細工物は散々目にしておるでな」
「あぁ……資料集の作成に携わっていたのか……」
「なら、一応は大丈夫か」
「思わぬところで役立ったな」
口々に安堵の声を漏らす者たちであったが、そんな彼らに――
「ただな」
――主催者が不吉な声を投げかけた。
居並ぶ一同がぎょっとしたように口を噤み、恐る恐る振り返るのを見て、
「イラストリア側は、少しばかり気になる台詞も漏らしていたそうだ。……〝孰れ公開の機会が来る〟――とな」
意味ありげな発言に対して、しかし一同が返した反応は「当惑」であった。
〝孰れ公開する〟と言われても……既に御目見得は為されているではないか。
「いや待て……日を改めて、他の者にも公開する、という事か?」
「他の者?」
「パーティに参加しておらなんだ貴族か?」
「もしくは、他国の者を集めて供覧に及ぶとか?」
「いや……モルファンの王女殿下がお越しになっている事を考えると、学院で公開するのやもしれぬ」
「あぁ、生徒を対象にか」
それはあり得るかも……などと言い合っていた中、一人がその可能性に気付いた。
「まさかと思うが……民に公開するつもりか?」
「民? ……領民にか?」
「何で然様な真似をするのだ?」
――この時代のこの世界では、発掘品を一般に公開するという習慣は確立していない。なので、一同の疑念も故無きものではなかったが、
「場所を考えろ。シャルドだぞ? 既に『封印遺跡』が公開されている場所なのだぞ?」
「「「「「あ……」」」」」
既に観光客が群れを成して集まっているシャルド、そこの古代遺跡の出土品である。しかも、件の古代遺跡から何か重要なものが発掘されたという噂は、既に巷に流布するところとなっている。
「ひょっとして……シャルドで公開するつもりか?」
「〝孰れ〟というのが、〝供覧する場所の準備が整ったら〟という意味だとすると……」
「あり得るか……」
それは画期的な話なのかもしれないが、或る意味では〝それだけ〟だ。
しかし……事マナステラにとっては、別の意味で重要――いや、重大な話であった。
「……イラストリアが貴重な出土品を、一般の民衆にまで見せるとなると……」
「我らが準備中の『資料集』も、やはり一般に供覧しなくては……」
「むぅ……見劣りがするか」
「……それだけではない。イラストリアが出土品を公開した後に『資料集』を公表しても……」
「……二番煎じと見られるか……」
「なんて事だ……」
巡り合わせの悪さに頭を抱えたくなるが、
「……そんな暇は無い。尻に鞭当ててでも作業を急がせねば、我が国の威信は地に堕ちるぞ」
これ以上イラストリアの後塵を拝するのは御免だ――とばかりに、計画の前倒しを決意するのであった。