第二百八十二章 歓迎パーティの夜 18.マナステラ王城(その1)
その夜更け、マナステラ王城の一室では、緊急に呼び集められた国務卿たちが臨時の会議を開いていた。
「夜も遅くにご足労戴いたのは他でもない。イラストリアへ赴いた者から、魔導通信機による緊急連絡があったためだ」
会議の冒頭に主催者から、緊急招集の理由が告げられると、それまで面倒臭そう胡散臭そうだった一同の表情が引き締まる。パワーワードは勿論「イラストリア」であるが、態々魔導通信機を使っての緊急連絡というのも捨て置けぬ話である。
「彼の国へは、『モルファン王女歓迎パーティ』に参加という名目で行った筈では?」
「そのとおりだ。ついでに言うと〝名目〟ではなく、真実その目的で行っておる」
「失言を詫びよう。それで? 使者は何と言って寄越したのだ?」
些細な揚げ足の取り合いをしている場合ではないとばかりに、単刀直入に本題に入る。無論、主催者もそれは望むところである。
「パーティの席上で、イラストリアからの発表があった。シャルドの古代遺跡から纏まった数の宝物が出土したという――な」
告げられた内容に、居並ぶ一同が唸り声を上げる。どうしてあの国は、こうも立て続けに金的を射抜く事が出来るのか。
既に出土の事実自体はパートリッジ卿から報告されているが、特使が驚いて報告を寄越したのは、それらが想像以上に見事であったためらしい。となれば、愚痴や恨み言の一つくらいは言いたくもなろうではないか。
「……まぁ、シャルドの古代遺跡の宝物は、今に始まった事ではないしな」
「うむ。一昔前にも夥しい財宝が発見されたと聞く」
「……この件が広まれば、愚か者どもが又候騒ぎ出しそうだな」
思わず溜息が出そうになるが、
「……悪い面ばかりではあるまい。この報せを奇貨として、調査計画の方を進めるべきだ」
昨年の暮れにパートリッジ卿から、〝シャルドの古代遺跡から新たに纏まった数の出土品が得られた〟事、〝シャルドの位置に鑑みると、マナステラでも『神々の東回廊』の麓で同じような古代遺跡が発見される可能性は少なくない〟事が伝えられた。
そして今年に入ってからは、パートリッジ卿の知人が〝ドワーフの作風を真似たと覚しき、しかも封印遺跡と同年代の酒器〟を手に入れた事も報せて寄越した。
特に後者の連絡は、国を挙げてのデータベース事業に邁進しているマナステラ上層部をちょっとした紛糾に陥れたのだが……今問題にしたいのはその事ではない。
「例の――『神々の東回廊』東麓での遺跡探索計画の事だな?」
「うむ。ノンヒュームに関係が有ろうと無かろうと、イラストリアで古代の遺物や宝物が相次いで発見されているという事実、なのに我が国では発見されていないという事実は、民の機嫌を逆撫でするに充分であろう」
「……発見されていない理由は、偏に〝国が探そうとしなかった事〟にあるのだからな。失政を咎める口実としては充分だ」
「クリーヴァー公爵家の件以来、我らに向けられる視線は厳しくなってきているしな」
――なればこそ、指弾が起きようかというそのタイミングで、機先を制するように探索計画の事を明かしてやれば、
「寧ろ……国民の協力を得る事もできるやもしれんな」
「うむ、大いに期待できるだろう」
しかし――一同の顔色に明るさが戻って来たところで、それに冷水をぶっかける者というのは、どこの国にもいるものらしい。
「先程の発言なんだが……」
「うん?」
「何かあったか?」
「あぁ。件の出土品とやら、〝ノンヒュームと関係が無い〟のは確かなのか?」
基本的な、しかし幾許かの懸念を含ませたその問いに、居並ぶ一同は互いに顔を見合わせる。確かあの古代遺跡は、ノンヒュームではなく人族の遺跡という話だった。なので頭から〝ノンヒュームと関係が無い〟と決め付けていたが……
「確かに……大幅に時代が下っておるとは言え、『封印遺跡』の事もある」
「決めてかかっては拙いか……」
「パートリッジ卿は? 何と言っているのだ?」
「先の連絡では……〝何らかの断定を下せる段階ではない〟――と……」
「言を左右にして惚けようというのか?」
「いや。パートリッジ卿は学者肌の男。確たる証拠が無い段階で、何かを決め付けるような事はせぬ」
「むぅ……断定するに足る証拠が無いというのか……」
「だが、それでは……」




