第二百八十二章 歓迎パーティの夜 16.イラストリア王城 国王執務室(その1)
「「「「乾杯!」」」」
モルファン王女一行の歓迎パーティも終わった夜更け、イラストリア王城の一室で祝杯を上げる四人がいた。場所は国王執務室――となればお判りの四人組である。
「いや、どうにか一山越えましたな」
「そうよな。……エイブのやつが出土品を抱えて戻って来た時には、この先如何なるやらと思うておったが……」
「ま、どうにか収まりがついたようじゃな」
「まだ難題は山積みですが、とりあえず目先の問題だけでも片付いたのは喜ばしいかと」
ウォーレン卿の微妙に〝喜ばしくない〟言い回しに、他の三人は〝空気を読めぬ奴〟と言いたげな渋い視線を向けるが、当のウォーレン卿は澄まし顔である。国王・宰相・ローバー将軍の三人も、ウォーレン卿の言い分には一理も二理も認めているので、安堵と喜びの中にも気を引き締めた様子で杯を傾ける。
「ま、一つ間違えば厄介な火種になるとこだった『出土品』を、どうにか無難に御目見得させられたんだ。そんだけでも上々の出来だろうって事で」
「……そうじゃの。マナステラの特使殿もどうやら納得しておいでのようじゃったし」
「少し焦っていたようだとも聞いているが……?」
「そりゃまぁ。何かと目の敵……とまではいかないにせよ、気にしてるだろう国のこってすからね。マナステラにも面子ってやつがありまさぁね」
「しかも発掘の責任者は、本国と折り合いを悪ぅしてこちらに移って来た御仁ですからの。苦虫顔も当然かと」
――どうやら彼ら最大の懸案だったのは、シャルドの古代遺跡から発掘されたあの出土品だったようだ。
成る程、確かに〝人族とノンヒュームが、「封印遺跡」に先立つ二千年前、今を遡る事三千年前から緊密な協力関係を、太古のイラストリアの地で気付いていた〟――などという事が明らかになれば、それが未だ仮説に過ぎないとしても、マナステラが暴発するのは目に見えている。
しかもその一方で、古代遺跡の発掘作業も、何か重要なものが発見されたらしい事も、衆目の見るところ明らかである。隠し通すのは到底無理というものだ。で、あるならば、何か尤もらしい「事実」を公表して、世間の目をそちらに向けるしか無い……
そういった目論見の下、マナステラの関係者が立ち会っても不自然でない「モルファン王女歓迎パーティ」という場を敢えて選んで、比較的無難かつ煌びやかな出土品の御目見得に踏み切ったのだ。イラストリアにとっても或る意味で賭であったが、どうやら勝ちの目を拾えたらしい。
「保管の方はどうなっておる?」
「当面は決して表に出せぬものでありますゆえ、王都に運ばせた分は城内の宝物庫に。一部の無難なものは学院の保管庫に収めてございます」
「それで全てではないのであろう?」
「まぁ……日進月歩の勢いで発掘が進んでおりますからな」
「ヤバそうな分は学院に運ばせるようにしてますがね。お誂え向きにモルファンの姫殿下がお越し遊ばしたんで、警備を厳重にしても不自然たぁ思われませんや」
「それまでの間は、パートリッジ卿が責任を持ってお預かり下さる事に。これには万一の事を考えた危険分散の意味合いもあります」
「ふむ……」
ものがものだけに万事万全とは言えぬであろうが、それでも可能な限りの警備態勢と言えそうではないか? 表沙汰になる事は疎か、人目を引くのすら拙いという制約がある以上、自然な範囲で打てる手はこれくらいか。
「パートリッジ卿からの献策にあった『展示館』、その付属施設という形での収蔵庫の建設計画も動いています。それまでは『封印遺跡』内で保管するのが最善かと」
「あそこにゃあ第一大隊の第五中隊が、増強された手勢で控えてますからね。おかしな事を考えるやつぁいねぇでしょうよ」
「……パートリッジ卿の屋敷にも保管すると言っていたが?」
「あちらも警備を手厚くするそうです。ノンヒュームが協力してくれるとか」
「国軍からその手の連中を動かすって手も考えてたんですがね。ノンヒュームの連中が動いてくれるんなら、まぁ任せようかって話に」
「あそこは去年、『幻の革』を扱っている店が賊に狙われましたからね。バンクス当局だけでなく、ノンヒュームも警備に参加するよう動いていましたから、それに紛れ込ませる形で」
「うむ……」




