第二百八十二章 歓迎パーティの夜 10.深夜の女子会(その1)
女三人寄れば姦しいと云うが、この時は四人の女性が集まっていたにも拘わらず、騒然とした集まりにはならなかった。まぁ、そのうち一人が残る三人の雇用側で、しかも王女というのでは無理からぬ事だろう。
それはさて措き、王女は他の三人のために、歓迎パーティの様子を報告する。別段興味本位という訳ではなく、今後の事を睨んだ上での情報共有が目的である。
乾杯の古酒・食器・折り鶴と、報告するネタは数々あれど、特に興味を惹いたのは、やはり掉尾を飾った「遺跡の秘宝」の件であった。
「パーティの席上で秘宝の存在を明らかにしたのは、何か意図があっての事かしら?」
「隠し果すのは無理と踏んで、最も効果的な形でお披露目を果たしたのでは?」
王女が持ち出した疑問点に、まず答を返したのはミランダであった。
「確かカールシン卿も、去年の後半から警備が厳しくなったと仰っていましたし」
「わたしたちの留学を口実に使ったっていう、あれね」
以前にも少し触れたが――シャルドの警備が厳しくなったのは、古代遺跡で物議ものの出土品が発掘されたためである。発掘現場の警備のみを強化すると、余計な詮索を招く虞があるというので、シャルド全域の警備を強化した訳だ。その口実に王女来訪が使われたというのは、既にカールシン卿が看破していたところであったが、今回イラストリアはその真相(の一端)を明かしたという事になる。
……尤も、真に隠さねばならない機密――人族とノンヒュームが共存していた事を示唆する出土品――については、依然として厳重な秘匿が決め込まれている。今回の情報開示は、どちらかと言えばその機密から目を逸らさせるために、比較的無難な出土品を公開したという裏事情があった。
そういった裏事情の存在に目を瞑れば、ミランダ嬢の解釈は充分に納得のいくものであった。
が――モルファンの官僚たちから〝年の割に強か〟と評されるアナスタシア王女の真意は、もう少し別のところにあった。
「時期的な事について云えばそうでしょうね。だけど、それを態々歓迎パーティの席上で、公にした理由は何かしら?」
王女の素朴な問いかけに、女子三人は互いに顔を見合わせた。
「単純に都合が好かったから――というのではいけませんか?」
物事何でも単純に考えた方が良いというオッカム的人生観に拠ったものか、リッカが最も明快な解釈を返す。それに対する王女の答は、
「いけなくはないし、充分にあり得る話だと思うわよ? ただ……それだけと安易に決めてかかるのも拙くない?」
……そう言われてみれば、確かに性急に結論に飛び付くのは下策やもしれぬ。
確かに、リッカの言うのが最もありそうな解釈ではあるが、それ以外の解釈についても一考しておくのが賢明だろう。
「と、いたしますと……イラストリアは明確な意図を持って、秘宝の件をパーティの席上で公にした、という事になりますが?」
その〝明確な意図〟とは何なのか?




