第二百八十二章 歓迎パーティの夜 7.パーティ会場~遺跡の秘宝~
第一陣として古酒での乾杯、第二陣として料理が漏られている器……と、立て続けに爆弾のようなネタを振られて疲れはしたが、その後は料理に飲酒に歓談にと、ごく在り来りの展開に推移した。このまま穏便に終わるかと思われたパーティであったが……どっこいイラストリア王家は、そんな手緩い幕切れはお好みでなかったらしい。パーティも終わりに向かった頃になって、会場の上手に現れたのは、イラストリア王立講学院の学院長、エイブラム・マーベリック卿であった。
「ご歓談中のところ無粋な割り込みをして申し訳ありませんが、ここで皆様にお目に掛けたいものがございまして……」
気を持たせるような前置きの後で、マーベリック卿が会場の袖に合図を送ると、何やら五つほどの大荷物が運び込まれて来た。
御目見得の品自体はそれほど大きくないようだが、それらが何れも馬鹿でかい台の真ん中にちんまりと鎮座しているのは、不心得者が手に取ったりしないようにとの配慮であろうか。……だとしたら、随分と貴重な品のように思えるが?
好奇心一杯の参加者を尻目に、粛々とそれらは運び込まれ、五つがほぼ等間隔になるように配置される。参加者たちが上品に優雅に、しかし好奇心を一杯に滾らせて、手近にある台の周りに向かう。それを見ていたマーベリック卿は頃や良しと判断したのか、
「今宵お目にかけますのは、シャルドの古代遺跡で発掘された財宝の一部であります」
――マーベリック卿がそう言った途端に、全員の視線が〝遺跡の財宝〟に突き刺さった。
この時供覧されたのは、実は精巧な複製品であったのだが、複製品とは言え本物と同じように金銀宝石で拵えられているため、本物さながらの警戒ぶりとなった次第である。何しろ破損や紛失の際は、王国から学園に賠償の請求が行くというのだ。万一の事などあって堪るものか。
……が、そんな裏事情を知らない参加者たちは、わらわらと手近の「展示台」の方へと急いで行く。……まぁ、本物であろうがレプリカであろうが、興味を掻き立てられる代物には違いない。しかも本日初公開だというのだから、これは群がり集まるのも道理である。
そしてその中には、モルファン王女アナスタシア姫の姿もあった。
「……殿下はこの手の宝飾品には、あまり関心をお持ちでないと思っておりましたが」
国にいる頃の王女の所業――一言で云えばお転婆――を知っているツィオルコフ卿とカールシン卿は、少しばかり意外の念に打たれたかのように問いかける。美術工芸品の鑑賞よりも、木に登ったり棒切れを振り回したり、或いは父親の酒のつまみを盗み食いする方に熱心だったではないか。
が――そんな二人に返された王女の台詞は、その二人をして〝あぁ、成る程〟と得心せしめるものであった。
「何言ってるの!? 遺跡の秘宝よ? 財宝よ? 気にならない訳が無いじゃない!」
つまり……その芸術性よりも何よりも、〝古代遺跡の秘宝〟という来歴――或いは胸熱ワード――こそが王女の琴線に触れたらしい。
その様子を見て、〝あぁやっぱり〟〝それでこそ我らの王女殿下〟……などという微妙な安心感に裏打ちされた、生温かい視線を向けてくるツィオルコフ卿とカールシン卿。
そんな視線にムッとしつつも、知っていればどんなにゴネてでも、発掘現場の見学に駆け着けたのに。なぜ探り出せなかったのか……と、怨みがましい視線を返すアナスタシア王女。王女の視線に籠められた弾劾にカールシン卿はタジタジとなるが、
(けど……どうせこの後にはバンクスに行くのよね。あそこには発掘の当事者だったパートリッジ卿という貴族もいるそうだし……)
これはこれで好都合ではないか――と、王女は一旦非難の手を緩める事にする。カールシン卿はホッとしたようだが……その一方でパートリッジ卿の方はと言えば、王女の襲撃を受けるフラグが立ったのであった。
そして……
(そうよね……どうせなら海賊の秘宝とか、埋もれた城の秘宝とか……他にも色々とありそうなのよね。城にいる間は調べられなかったけど……この国にいる間に、少し調べておこうかしら……)
――と、クロウにとっても迷惑なフラグが立ちつつあった。




