表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1571/1815

第二百八十二章 歓迎パーティの夜 5.パーティ会場~折り鶴~

「甘いという話だったし、あれはデザート扱いじゃないの? それか……この大人数にお()()()するのはまだ早いと判断したのか」

「作るのに手間が掛かるため、充分な量は供給できないという話だとか?」



 使節団長のツィオルコフ卿から問いかけるような視線を向けられたカールシン卿は、暮れのパーティで聞かされた内容に、後日耳にした話を追加して開陳する。(もっと)も話の(しん)(ぴょう)(せい)については、自分でも半信半疑……よりも「疑」側に傾いているのだが。



「えぇ、そのようです。仄聞(そくぶん)したところによると、嘘か真か、原料を細かに()(つぶ)したその後で、掻き混ぜる(コンチング)だけに三日も費やすのだとか。……詳しい製法は教えてもらえませんでしたが」

「「三日!?」」



 手間が掛かっているだろうとは思っていたが、それが真実なら〝手間〟どころではない。話半分としても一日半。そりゃ、イラストリアだってノンヒュームだって、()(かつ)に広めるのには及び腰になる筈だ。



モルファン(われわれ)には便宜を図ってくれるとの話でしたが……」

「……それを当てにして待つしか無さそうね。ところで」



 ――と、王女はここで話題の転換を図った。



「テーブルの上に何気無く置かれているこの飾りだけど……一体どういうものなのか知ってる?」



 王女が視線を向けた先には、澄み切った色の紙で作られた、「鳥」と(おぼ)しき小さな工芸品があった。一件すると素朴に見えるが、()(さい)に目を凝らして眺めれば、極めて洗練された技法で作られている事が判る。

 何しろパッと見たところでは……



「……紙でできているようですが……切ったり貼ったりした跡がどこにも見えませぬな」

「そうなのよね……」

「つまり……これは一枚紙を折っただけで形作られていると?」

「話の筋道として、そういう事にならない?」

「……確かに……そうなるのかもしれませんが……」

「……見れば幾つかの種類があるようですな。……どれも同じ作りなのでしょうか?」

「そうみたいよ? 少なくとも、わたしが見た限りだと」



 だとすると、これは単なるその場の思い付きなどではなく、



「……体系的な技術の存在を予感させますな」

「紙を折るだけで鳥を形作る技術ですか?」

「鳥だけとは限らんだろう。いや(むし)ろ、鳥以外のものも作れると見るべきだ」



 ――確かに、クロウについてならその評価も間違いではないが、生憎(あいにく)とイラストリアについては正しくない。彼らはクロウから贈られた「折り鶴」を解いて、その製作法を調べ上げただけだ。ゆえに彼らが折れるのも、数種類の折り鶴だけなのである。

 だが……そんな事情はモルファンの理解の埒外(らちがい)にある訳で、



「イラストリアにそういう工芸があったなど、聞いた事もありませんが」

「私とて同じだ。……だとすると、これはノンヒュームの技術だと?」



 何でもかんでも「ノンヒューム」に押し付けているような気もするが、他に容疑者たり得る者がいないのも事実である。

 しかし……



「それはどうかしら。もしもそうだとしたら、ノンヒュームの菓子店にも飾られていておかしくない筈でしょう? カールシン卿は目にした事があったのかしら?」

「いえ……目を皿のようにして店内を見回していた訳ではありませんが、無かったように思います。……もしもこんなものがあれば、その時点で気付いていた筈ですし」



 秘匿していたという説明も出来なくはないが、何のためにそんな事をする?

 いや、それ以前に……ノンヒュームの菓子店が開店したのは一年前。モルファンが留学の件を決めるのより半年近くも前である。

 そんな前からモルファンの動きを予測して、それに備えていたというのは……幾ら何でも無理筋だろう。そんな事ができるくらいなら、菓子店ではなくて神殿でも開いて、神託で荒稼ぎができる筈だ。



「そうすると……残る可能性はと言えば……」

「……イラストリアは、ノンヒューム以外の文明勢力とも(ゆう)()を結んでいる……?」

「しかも、その事を()気無(げな)く通告してきた?」



 ……成る程。これは確かに面倒な話になりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ