第四十二章 アクセサリー騒動 ~第一幕~ 4.エッジ村アクセサリー事情
第一幕の最終話です。
さて、ホッブさんに頼まれていたデザインの件だが……インターネットで現代の宝飾品デザインを眺めて、使えそうなものをプリントアウトして、これを紙に描き移してホッブさんに見せればいいか。
そう言えば……丸玉に拘らず、自然石をそのままの形で研磨して、周囲を貴金属で縁取ったデザインのアクセサリーがあったな。よく憶えてないが、アール・ヌーボーの時代だったかな……。とは言え、そういうデザインは合わせる衣裳を選びそうだし、この村には向かないか。
まぁ、デザインの件はこれでいいとしても……ホッブさん、アクセサリーの製造や販売を本格的にやろうとか考えてるのかな? これは一度確認しておかないと、下手をするとこの村の産業構造にも影響するし、下手に外部の人間に目を付けられると俺の生活にも影響するしな。
で……聞いてみたんだが、そんなつもりはないようだった。
「こっただ田舎者の作った飾りなんちゃ、買う物好きゃぁおらんでよ」
いや、行商人が興味を持ってたでしょう?
「買い叩かれんがオチだで」
それはあるかも……。
「やっぱ、いざって時ゃ、手前でつくったお飯だけが頼りだでな」
なるほど。収入の不確かな、しかも現金での収入になるアクセサリーよりも、食糧の現物の方が安心できる、と。確かに、エッジ村で現金を貰っても微妙に使いづらいしな。エルギンまで出ないとろくに買い物もできないんじゃぁ面倒だわ。
案に相違して、ホッブさんは堅実だった。アクセサリーはあくまで村の中の需要に応えるに留めるつもりらしい。少しでも出来のいい物を作りたいのは、職人としての意地だと言っていた。
それなら別に気にする必要はないか。ホッブさんと相談して、村の女性陣がお気に召すようなアクセサリーを作ってやればいい。
『ますたぁ、行商人はぁ?』
……あぁ、それがあったか。
『行商人の追求を、どう誤魔化してどうかわすか。何か知恵はないか?』
『あれっ? でも、マスター、村の皆さん、口を噤んでくれたんですよね?』
『それはそうだがな、こう言うのはポロリと口が滑るのが恐いんだよ』
『行商人が納得するような身代わりが欲しいと仰るのですな』
『以前……仰って……いたエルフは……だめ……ですか?』
『そりゃ、エルフなら申し分ないんだが……どう話を持っていけばいいのか……』
名案が浮かばないまま、その日の会議はお開きになった。事態が一転するのは数日後の事である。
明日は第二幕に入ります。




